拘留期間が長いほど、拘留所暮らしの匂い、やつれが滲むのがフツーの人間だが、約2年4ヶ月の勾留を経た37歳の木嶋佳苗に、そういった陰は見えなかった。というより・・・・・・ナマ佳苗は、生き生きと、キレイだった。(本文の冒頭より) |
アヒオ「ブログを見ているみんな!こんにちは!
僕の名前はアヒオ。今日は白鳥(しらとり)先生から、僕たちがまだ知らない世の中のことをいろいろ教えてもらうんだ。
白鳥先生、今日の授業のテーマはなんですか?」
白鳥先生「みなさんごきげんいかがでしょうか?白鳥です。
もうすっかり寒くなってしまいましたが、読書の秋、というわけで、みなさんの心にさわやかな一陣の風が吹くような素敵な一冊を皆様にご紹介しようと思います。
題名は、北原みのり「毒婦。 木嶋佳苗 100日裁判傍聴記」です。
アヒコ「・・・。先生、これ、本当にさわやかなんですか?
題名からして全然のような気が」
アヒオ「アヒコちゃん、白鳥先生がさわやかな本を紹介するわけないじゃないか。
なにしろ前に先生が紹介した本が「もし、ドラッガーを読んでも勝てないと悟った女子マネージャーが肉体を駆使したら… 」なんだから。
木嶋佳苗って、確か数年前に婚活詐欺の殺人事件で、つきあっていた男性を次々に練炭で殺して、センセーションを巻き起こした事件の犯人ですよね?」
白鳥先生「あら、なんだアヒオ君、よく知っているわね。
そうなのよ。
この本は、インターネットで知り合った10人以上の男性たちから合計一億円以上のお金を受け取り、彼女の身の回りで少なくとも3件の殺人事件と複数の窃盗、詐欺事件が起こって逮捕された木嶋佳苗の裁判の傍聴記録なのよ」
アヒオ「でも、この事件は非常に興味深かったから、この本、ちょっとおもしろそうですね。
確か、当時、「どうしてこんな不細工な女にこれだけたくさんの男がひっかかってだまされたのか」ってすごく話題になっていたのと、殺害方法が練炭で、しかも用意周到にすごく巧妙に殺していたのが怖かったのを覚えています」
白鳥先生「そうなのよね。とてもショッキングで、ちょっと類を見ない事件だったから、私もとても覚えているわ。
で、この本なんだけれど、二つの特徴があって、一つ目が、いわゆる事件のルポタージュではなくて、裁判の傍聴記だってこと。
そしてもう一つは、この傍聴記の筆者が女性で、徹底的に”女性目線”でこの事件の裁判の様子を記録しているところね。
週刊誌やワイドショーに限らず、どうしても一般のメディアって”男性目線”になりがちで、しかもそれに無自覚だったりするわよね。
アヒオ君が言うように、この事件がさんざん「ブスな女による婚活詐欺」って、女性の容姿の部分がこれでもかっていうぐらいクローズアップされていたのもそうだし。
そういう意味で、女性の連続殺人犯の実像は、女性の目からどう見えるのかっていうのは新鮮で、興味深かったわね。
例えば、木嶋佳苗はおよそ被告人には似つかわしくないような服装で、公判ごとに姿を替えているんだけれど、筆者はそのディティールや、声のトーン、しぐさなんかまで細かく描写していて、それにどういう意味があるのかなど、いろいろ想像を巡らしているのよね。
これを読めば、アヒオ君も、女性なら同じ女性をどう値踏みするのか、みたいなこともわかって考えさせられるわよ」
アヒオ「なるほど。確かに筆者が女性だと、そういう部分も面白そうですね。
で、どうでした?
これを読んで事件の全貌や、木嶋佳苗の実像が少し見えてきましたか?」
白鳥先生「それがねえ・・・。
筆者は裁判の傍聴だけでは飽きたらず、木嶋佳苗の故郷の北海道まで行って彼女の生い立ちを取材しているんだけれど、これ、読めば読むほど、彼女がよくわからなくってくるのよね。
特に殺害の動機が。
木嶋佳苗は裁判の記録や証言などを見ると、婚活詐欺の見事な手際といい、相手に自分を魅力的な女性だと思わせるための見せ方といい、相手を騙すための手間を惜しまないそのマメさといい、ある意味で非常に頭のいい女性なのがよくわかったんだけれど、本人が殺人だけは否認していたこともあって、結局いくら読んでも、彼女がどうして殺人に至ったのか、ていう動機まではよくわからないのよね。
状況を聞いていると、「追い詰められてやむを得ず殺した」わけでもなさそうだし、「感情的になって殺した」わけでもなさそうなの。
すでに相手から充分お金は引き出しているから、殺すことによって相手からお金をさらに奪うこともできないし、実際していないから「金欲しさに殺した」というのも考えにくい。
こんなに頭のいい人が、どうして殺人を重ねることによって自分の立場が危うくなることが想像できないのか、どうしてここまで冷徹に人が殺せるのか。
それこそサイコパスかなにかだと単純にレッテルを貼らないと説明がつかないような彼女の行動を見ていると、ヘタなホラー小説なんかよりよっぽどホラーなのよね。
公判での堂々とした、ふてぶてしいといってもいい態度や、どう考えても裁判において自分が不利にしかならないようなことでも、妙なところにこだわりがあって、そういうことについては長々と話したりする一幕もあったりして、そこらへんのアンバランスな感じが読んでいて薄気味悪かったわ」
アヒオ「なるほど。
筆者も無理に類型にあてはめて「わかりやすいストーリー」に仕立てあげていないから、余計、彼女のことがわからなくなるのかもしれませんね。
でもそのわかりにくいところに彼女の本質があるのかもしれないな」
アヒコ「その事件のこと、思い出したわ。
確かに当時、本の題名の「毒婦」みたいな呼び名で、彼女はとんでもない化物みたいな扱いで報道されていたのよね。
でも、実際に裁判が始まって、詳細が明らかになればなるほど、彼女の異常さがますます増しているってことなんですね」
白鳥先生「そうね。とてもありがちなフレーズだけれど彼女の「心の闇」っていうのは、これを読んでもますますわからなくなってしまうぐらい深いものなのかもしれないわね。
というわけで、公判の内容だけじゃなくて、筆者の木嶋佳苗と、被害者の男性達、両方に対する冷めた視点も含めて読みどころのあるノンフィクションなので、そろそろ婚活を考えているような妙齢の男女にもオススメよ」
アヒコ「男の人はこんなの読んだら、婚活なんて怖くなってできなくなりそうですね」
アヒオ「先生、で、これのどこがさわやかなんですか?」
白鳥先生「アヒオ君、アヒコちゃん、細かいことは気にしちゃだめよ!!!
なにはともあれ、私たちの生きているこの世界には、まだまだ知らないことがたくさんあるということが勉強できてよかったわね。
それじゃあ、そろそろ時間よ。ブログを見ているお友達にお別れのあいさつをしましょうか」
三羽「は〜い!それじゃあみんな、またね〜!」
しらないことが おいでおいでしてる
出かけよう くちぶえふいてさ
びっくりしようよ あららのら?
しらべてなっとく うんそうか!
おもしろ地図を ひろげよう
たんけん はっけん ぼくのまち
(NHK教育テレビ「たんけんぼくのまち」のテーマ 作詞:山川啓介 作曲:福田和禾子)
To Be Continued...
<関連過去記事>「もし、ドラッガーを読んでも勝てないと悟った女子マネージャーが肉体を駆使したら… 」
「結局、女はキレイが勝ち」なのか
<キャスト>
アヒオ・・・アヒル系男子。好きなチームはセレッソ大阪。