第二十七回より
葡萄棚で戯れる潘金蓮と西門慶。
西門慶の膝に乗っているのは使用人の龐春梅。
ナビゲーターは私、アヒオでお送りさせていただきます」
アヒコ「どうしたの?アヒオ君、突然」
アヒオ「実は、これから数回にわたって中国の小説の中でも「天下第一の奇書」と呼ばれた『金瓶梅』を紹介していこうと思うんだ」
アヒコ「流行っているわけでもないのにまた唐突ね」
アヒオ「なにをいってるの、アヒコちゃん、流行っていないっていうことは、これから流行るかもしれないっていうことじゃないか。ボクは時代の2〜3歩先を進んでいこうとしているんだよ。
アヒコ「先走りしすぎて迷子になってしまわないか心配ね」
アヒオ「大丈夫。まかせとけって。ところで、アヒコちゃんは『金瓶梅』についてどのぐらい知っている?」
アヒコ「ほとんど何も知らないわ。確か『金瓶梅』って中国の有名なポルノ小説じゃなかったっけ?よりによって、なんでそんなものをわざわざ?」
アヒオ「OK。それぐらいのことなら知っているんだね。
確かにこの小説、露骨な性描写があって淫の用語だけで小事典ができるぐらいいろんな言葉が使われているので、中国本土ではいまだに規制されていてノーカットの完本はないみたいだし、日本でも戦前までは禁書になっていて、戦後も性描写の部分は省略して翻訳されることが多くて、完訳がなかなか出なかったぐらいだから『金瓶梅』といえばとりあえずエロ、という理解で間違ってはいない。Googleで検索しても『金瓶梅』が風俗店の名前に使われていたりするぐらいだしね。
ただね、この小説、一般的にはあまりにもエロの側面ばかりがクローズアップされすぎているけれど、それだけで片付けるにはあまりにも惜しい面白小説だっていうことを、もっと知ってもらってもいいんじゃないかなと思ったんだ。
なにしろ中国の「四大奇書」の一つとして『三国志演義』『西遊記』『水滸伝』というそうそうたる作品と並び称されるものだからね」
アヒコ「他の3つは有名よね。でも金瓶梅は読んだことがないどころか、ポルノっていうこと以外、どんな内容なのかも知らないわ。どんなお話なの?」
アヒオ「この『金瓶梅』は先行する『水滸伝』の影響を強く受けた、というよりも今風に言うと『水滸伝』のキャラクターを使ったスピンオフ、同人誌みたいな作品なんだ。
アヒコちゃんは『水滸伝』に出てくる「行者の武松」のお話は知っている?」
アヒコ「残念ながら水滸伝も、なんとなく知っているだけで、実はちゃんと読んだことないのよ」
手短に言うと、『水滸伝』の中の1エピソードなんだけれど、主人公は武松という素手で虎を殺したことで有名になった豪傑なんだ。
その武松が兄夫婦のところへ尋ねていくんだ。
お兄さんの名前が武大。この武大は弟の武松とうってかわって風采の上がらない貧相な男。そして兄嫁の名前が潘金蓮。これが絶世の美女なんだけれど、実はものすごい性悪。
彼女はもともとお金持ちの家で小間使いをしていたけれど、その美しさゆえに旦那が手をつけようとしたのを奥さんにいいつけて、逆ギレして怒った旦那が、醜男で有名な武大のところへ嫁に出してしまったんだ。そんな経緯で夫婦になったもんだから、潘金蓮は常々、夫に不満だった。
そこへたくましい美男子の武松がやって来た。夫にうんざりしていた潘金蓮はこんな素敵な弟がいたんだと、さっそく武松を誘惑するんだけど、この武松っていうのが馬鹿だけどクソ真面目な男なんで、それをきっぱりとはねつけるんだ。
その後、武松は仕事で長期出張に出るんだけれど、その間に武松をあきらめた潘金蓮が今度は、薬屋をやっている金持ちの西門慶という色男と出会って、すぐにそいつとできてしまうんだ。で、武大の留守中に二人は浮気を重ねるんだ。
ある日武大は浮気の現場に居合わせて、西門慶に殴りかかろうとしたんだけれど、逆に返り討ちにあって重症を負い、これがきっかけで病床に臥してしまう。
西門慶といっしょになりたかった潘金蓮は、武大が寝たきりなのをいいことに、西門慶から毒薬をもらって薬と称して武大に飲ませて、毒殺しちゃうんだ。
その後、出張から帰ってきた武松は兄の死に不信を感じ、やがてそれが二人の手による毒殺だと知って、怒り狂って藩金蓮と西門慶及びその家の者たちを皆殺しにして、その後自首して流罪となってしまうっていうお話なんだ。
『水滸伝』では武松の物語はこの後、流罪になってからも続くんだけれど、『金瓶梅』では「もし西門慶と潘金蓮が、武松に殺されずにすんだら」という仮定で、その後のお話が進んでいくんだ」
でも、よくそんな同人誌まがいが、『水滸伝』と並び称されるほどの作品になったわね」
アヒオ「実は一部のキャラや設定こそ『金瓶梅』は『水滸伝』の借り物だけれど、中身は全然違う、だけじゃなくて文学的な価値もとても高くて、中国小説史上の大転換となったといわれるほど、画期的な作品だったんだ。
それじゃあ、『金瓶梅』のどこがすごいのかっていうのは、また次回」
<参考文献>
金瓶梅―天下第一の奇書 (中公新書)
<キャスト>
アヒオ・・・アヒル系男子。好きなチームはセレッソ大阪。
ランキングサイトに登録しています。ボタンを押して投票していただけるとうれしいです。
凄い!!!勉強になります。
返信削除私もポルノ小説ぐらいの知識レベルが無かったので…
たのしみにしています。
なるほど。わかりやすい説明です。
返信削除