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2012/05/02

はじめての「金瓶梅」 3 日本人が知っておくべき、新・3大『金瓶梅』に登場する美女

映画「金瓶梅Ⅱ」より潘金蓮(実は、この役者は日本人)

アヒオ「今日はみなさんお待ちかね、「日本人が知っておくべき、新・3大『金瓶梅』に登場する美女」のコーナーです」

アヒコ「なんかどこかで聞いたようなフレーズね・・・

アヒオ「気のせいだよ!気のせい!

「日本人が知っておくべき、新・3大『金瓶梅』に登場する美女」

まずは一人目、みなさんももうおなじみの悪の華、西門慶の第五婦人、潘金蓮(はんきんれん)であります」

原作にも出てくる有名な潘金蓮と西門慶の出会いのシーン

「『金瓶梅』の物語世界をはげしく撹乱するトリックスター」(井波律子)

「『金瓶梅』のなかで最大のヒロインといえば、なんといっても潘金蓮であろう」(日下翠)

アヒオ「まず有権者のみなさまに訴えたいのは、中国では昔から纏足(てんそく)した小さな足を形容して「金蓮」と呼んでいたことであります。

当時の女性にとって纏足した小さな足は魅力的な女性の条件。潘金蓮はその名の通り小さな足をもち、妖艶かつ淫蕩な『金瓶梅』最強の美女なのです。

その性格はきわめて疑り深く、目障りな相手には委細構わず突っかかって、あちこちで騒動を巻きおこすというトラブルメーカーで、まさに『金瓶梅』のもう一人の主役といっていい存在なのであります。

しかしそんな傍若無人の彼女にも、年貢の納め時はやってきます」

アヒコ「あら?潘金蓮は最後はどうなっちゃうのかしら。やっぱり勧善懲悪で成敗されてしまうの?」

アヒオ「勧善懲悪っていうより、因果応報かな。この『金瓶梅』は一見でたらめなようで、物語全体は仏教説話の因果応報譚のようなつくりになっているんだ。

物語の終盤、潘金蓮は西門慶が弱っているのに満足できず、怪しい僧からもらった精力増強の媚薬を、服用量を大幅にオーバーして飲ませるんだけれど、それによって西門慶は淫欲を暴発させたあげく、病気になって死んでしまうんだ」

アヒコ「西門慶が先に死んでしまうのね。しかも淫欲を暴発させたあげくって・・・」

アヒオ「実に彼らしい最期じゃないか。でも、西門慶あっての潘金蓮だから、これはまさに自殺行為といえるね。

西門慶が死んでしまうと、第五婦人という弱い立場で資産もなく、彼の寵愛だけがたよりだった潘金蓮は、正妻の呉月娘(ごげつじょう)によって家を追い出されてしまうんだ。

なにしろ潘金蓮はこの呉月娘とも西門慶の生前、何度もやりあっていたから、呉月娘からしたら積年の怨みといったところなんだろうね」

アヒコ「今までなんとなく陰が薄かった正妻の呉月娘も、ただただおとなしくしていたわけじゃなくて、逆襲の機会をうかがっていたわけね。なんておそろしい」

アヒオ「やられたら泣き寝入りせずにやりかえす。これが『金瓶梅』を生きぬく掟だよ。

追い出されてからも潘金蓮は、自分の美貌でまた別の男をみつけてどうにかやっていこうとするのだけれど、悪いことは続くもので、あの流罪となっていた武松が恩赦で無罪放免となって帰ってくるんだ。

当然、武松は復讐が目的で帰ってきたんだけれど、彼は潘金蓮を油断させるために自分と結婚して欲しいと申し入れをする。自分の魅力に自信のある潘金蓮は、脳天気に武松の策略にあっさりひっかかって、武松の元へ赴き、一刀のもとに首を切られて一巻の終わりっていうわけ」

アヒコ「一代の悪女も最期はあっけなかったわね。結局そこで『水滸伝』と同じ結末に物語が回収されてしまうのね」

アヒオ「そうなんだ。西門慶と潘金蓮の死後も、まだしばらく物語は続くんだけれど、後は西門家の没落と、残された婦人たちの後日談だから、彼女の死で「第一部 完」といったところかな」

アヒコ「結局、西門慶も潘金蓮も、自分のしたことの報いを受けたってことね」

アヒオ「そう。因果応報だね。それじゃあ、次にいこうか。

「日本人が知っておくべき、新・3大『金瓶梅』に登場する美女」

2番目に紹介するのは、潘金蓮となにかと好対照な第六婦人、李瓶児(りへいじ)です」

映画「金瓶梅Ⅱ」より李瓶児(この役者も日本人)

「潘金蓮の最大のライバル」(井波律子)

「おとなしく、上品で、エレガント。だが、彼女は最初からそのように上品な女性であったわけではない」(日下翠)

アヒオ「まず有権者のみなさまに訴えたいのは、李瓶児は、元々は西門慶の隣の家に住んでいる花子虚という男の妻だったのであります。

しかし、すぐ隣に美貌の李瓶児がいるのを西門慶がほっておくはずもなく、西門慶は政府高官に賄賂を贈り裏工作をして花子虚を陥れて破滅させ、首尾よく自分のものにしてしまうのです」

アヒコ「西門慶のあくどさは、あいかわらずね」

アヒオ「まあ、李瓶児も、西門慶と出会ってすぐに浮気をしているぐらいだから、まんざらでもなかったんだろうけれどね。

花子虚は結局、失意のまま死んでしまうんだけれど、彼の死後、李瓶児は当然西門慶と結婚できると思っていたのに、たまたま西門慶はその時期、別件でトラブルに巻き込まれてそれどころでなくなってしまったので、李瓶児は待ちきれなくなって別の男と再婚するんだ。

でも、その後で、トラブルが落ち着いた西門慶が今度はその男から李瓶児を奪おうと画策すると、彼女もすぐその気になって、その男をあっさり捨てて西門慶の元へ走って、彼女は西門慶の第六婦人におさまることになる」

アヒコ「すごい行動力というか、節操が無いというか。潘金蓮のライバルっていうことは、二人は相当仲が悪かったの?」

アヒオ「仲が悪いっていうより、潘金蓮の方が一方的にライバル視して攻撃していたって感じかな。李瓶児はどちらかというとおとなしめの性格で、西門慶と結婚するまではともかく、それ以降は目立って悪辣なふるまいもしていないしね。

彼女が潘金蓮のライバル足り得たのは、たんに美しいというだけではなくて、彼女には前の旦那の少なからぬ遺産をにぎっていたのも大きかった。

それに対して潘金蓮は身一つで輿入れしてきたから、欲しい物があったら西門慶にいちいちねだらないといけなかった。彼女からしたら、李瓶児が服やアクセサリーを自分で好きなだけ買えるのは面白くなかっただろうね」

アヒコ「そうか。潘金蓮の場合、身分が低くて資産も持たないがゆえに、他を蹴落としてでも自分の魅力で男をつなぎとめておかないと、他に頼るものがなにもないから、そこまで必死にならざるをえないという側面もあるのね」

アヒオ「この時代、階層にかかわらず多くの女性が纏足をしていて、肉体労働なんてできる身体じゃなかったから、今さら男に頼らない普通の仕事をこなすことも難しかったしね。そこらへんに当時の女性の生きることの大変さが垣間見えるよね。

物語自体のスケールが大きくて波乱万丈だったり、血沸き肉踊る物語だったりする他の四大奇書の『西遊記』『三国志演義』『水滸伝』とは違って、そういう当時(この小説の舞台は北宋という設定だが、実際にそこで描かれる世界観は、書かれた時代である明末)の庶民の日常生活のディティールや風俗、行動原理なんかが細かく描写されているのも『金瓶梅』独自の魅力だね。それはともかく、

李瓶児はやがて西門慶の子供、しかも男の子を出産したんだ。この子は「官哥(かんか)」と名付けられた。もちろん、西門慶は大喜び。

男の子ということは当然跡取り候補だから、李瓶児の家での立場はこれでいっそう確かなものとなってしまった。正妻でもない、跡取り息子も産んでいない潘金蓮が脅威を感じたのはいうまでもない」

アヒコ「あら大変。潘金蓮危うしね。でも、それですごすごと引き下がる潘金蓮じゃあないわよね?」

アヒオ「もちろんさ。悔しくてしかたない彼女は、李瓶児や官哥に対しておりにふれて執拗にいやがらせを繰り返し、挙句の果てに、飼い猫を仕込んで、官哥に飛びかからせたんだ。もともと病弱だった官哥はショックを受けて、これが元でまもなく死んでしまう」

アヒコ「ひどい・・・。まさかそこまでするなんて

アヒオ「元々それほど気が強いわけでもなかった李瓶児は、子供を失ったショックで、これ以降、どんどん弱っていってやがて病死してしまう。最期に正妻の呉月娘に「潘金蓮は油断ならないから気をつけてください」と言い残してね。

後々、李瓶児のこの言葉を覚えていた呉月娘は、さっきも言ったように西門慶の死後、金蓮を追い出すことになるから、李瓶児も最後の最後に金蓮に一矢報いたことになるんだけれど、それにしてもかわいそうな末路だよね。

この『金瓶梅』の世界では、戦えない女は生き抜いていけないんだ」

アヒコ「まさに弱肉強食の世界なのね。女達も強くならざるをえないという。これで二人紹介が終わったから、三大美女も、いよいよあと一人ね」

アヒオ「「日本人が知っておくべき、新・3大『金瓶梅』に登場する美女」

最後は、西門慶、藩金蓮亡き後の金瓶梅世界をかき回す戦闘少女、潘金蓮つきの侍女、龐春梅(ほうしゅんばい)です」


映画「金瓶梅Ⅱ」より龐春梅。この役者さんは中国(香港)人

「身分こそ低いが、誇り高く利口な美少女」(日下翠)

「異様に闘争心が強く、潘金蓮と一致協力すると、まさに「向かうところ敵なし」」(井波律子)

アヒオ「まず有権者のみなさまに訴えたいのは、龐春梅は元々は西門慶の正妻呉月娘つきの侍女だったのですが、潘金蓮がやってきてからは潘金蓮つきの侍女になったことであります。

彼女は器量良しで頭の回転も早く、あの潘金蓮が唯一全幅の信頼をよせる女性です。そして龐春梅もその信頼を裏切ることなく、最後まで潘金蓮に忠実に仕えます。

性格は、負けん気の強い戦闘的な少女で、例えば、第四婦人である 孫雪娥(そんせつが)には折にふれていじめられたり、からかわれたりしたのですが、その時も、彼女はおとなしくひきさがらずに、藩金蓮にあることないことをいいつけます。

腹を立てた潘金蓮がこんどは西門慶をそそのかすと、あっさり金蓮の言葉を信じた西門慶は孫雪娥をさんざん打擲して、龐春梅はまんまとしかえしに成功するのです」

アヒコ「みごとな連携プレーね。やっぱりこの世界で生き抜こうと思ったら、このぐらいたくましくないとだめなのね。ちなみに金蓮つきの侍女っていうことだけれど、この子も西門慶に手をつけられているの?」

アヒオ「もちろんさ。こんな美人を西門慶がほっとくはずないじゃないか(笑)。

それはともかく、彼女は西門慶の死後、潘金蓮と仲が良かったこともあって、正妻の呉月娘にうとまれて、金蓮が追い出されるよりも先に、高級官僚の周守備のところに売り飛ばされるんだけれど、そこから彼女の運命が一変するんだ。

彼女は周守備に持前の器量とかしこさが気に入られ、周守備の第二夫人としておさまるという大出世を果たす。

力を手に入れた春梅はさっそく、西門慶の死後没落して公売に出されていた孫雪娥を買い取って、自分の召使にしてこきつかって過去の復讐を果たすんだから、まったくたいした子だよ」

アヒコ「出世してからも侍女だった頃にいじめられた時の復讐を忘れないなんて、執念深いというかなんというか。いい性格しているわね。それで彼女は幸せになってめでたしめでたし、ってわけ?」

アヒオ「ところが一筋縄ではいかないのがこの『金瓶梅』。

やがて旦那の周守備が異民族の国家である金との戦争にかりだされて戦死してしまうんだ。

春梅は、遺産を手に入れてますますやりたいほうだいに歯止めがかからなくなってしまって、結局、下男の十九歳の美少年と淫欲にふけりすぎて身体を壊して死んでしまうんだ」

アヒコ「結局、春梅も主人だった潘金蓮同様、最期は自分の欲望に飲み込まれてしまったのね・・・」

アヒオ「ここにも因果応報の法則は生きているんだね。以上、「日本人が知っておくべき、新・3大『金瓶梅』に登場する美女」でした。

ちなみに、もう気づいたかもしれないけれど『金瓶梅』っていうタイトルは、

潘金蓮の「金」、李瓶児の「瓶」、龐春梅の「梅」

からとっているんだよね」

アヒコ「あら?そう言われてみれば。気づかなかったわ。そういうことだったのね!

ところで、春梅が死んじゃったら、それでお話は終わり?」

アヒオ「そうだね。春梅の死によって『金瓶梅』世界は完全に崩壊するんだけれど、最後に少しだけ、正妻の呉月娘の物語を入れて物語を締めるんだ。

この物語のなかでは比較的まともな常識人の西門慶の正妻、呉月娘は、西門慶の死後、没落する西門家を苦労しながら守って、金国が侵略して来てからは南へ難を逃れたり、せっかく生んだ子供を過去の因縁によって出家させられたり、いろいろ苦労を重ねながらも、最後は優秀な下男だった玳安(たいあん)を養子にして西門家をつがせ、七十歳まで生きて無事一生を終えるんだ。

そして、「これも彼女が平素から善行を積んで、お経を唱えていたおかげである」みたいな強引な因果話で締めて、『金瓶梅』は幕を閉じるんだ」

アヒコ「これだけドロドロなお話なのに、最後はずいぶんあっさりしているのね」

アヒオ「まあ、元々、日々の家のなかのゴタゴタをねちっこく詳細に描くだけのお話だから、波乱万丈な物語展開があるわけでもないし、最後はどこかであっさり切ってしまわないといけなかったんだろうね」

アヒコ「なるほどね。アヒオ君が突然『金瓶梅』を語り出した時は気でも狂ったかと思ったけれど、確かになかなか魅力的なお話だということがわかったわ。

せっかく『金瓶梅』の世界観が少しわかってきたことだし、なにかやさしめの『金瓶梅』関連の本でもあったら、読んでみたいんだけれど」

アヒオ「それはいいと思うけれど、実は『金瓶梅』は原作自体が非常に難解なので、翻訳を読むにしても、手を出す時はちょっと注意したほうがいいよ。それじゃあ、次回は日本で手に入る『金瓶梅』の関連本を一通りみていくね」

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<参考文献>

中国の五大小説〈下〉水滸伝・金瓶梅・紅楼夢 (岩波新書 新赤版 1128)


アヒオ・・・アヒル系男子。好きなチームはセレッソ大阪。

アヒコ・・・アヒル系女子。好きなスイーツは牛乳プリン。

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