2012/04/18

伊藤洋一のRound Up World Now!「中国スペシャル」より 経済編

昨日の続きです。ポッドキャスト番組「伊藤洋一のRound Up World Now!」の2012年4月13日の放送内容(第679回) 富士通総研経済研究所 主席研究員の柯隆(かりゅう)さんを招いての「中国スペシャル」を文字おこし(一部読みやすいように編集)してみました。

今日は経済編です。こちらも政治編に負けず劣らずおもしろいです。

(以下、ポッドキャストより)


伊藤洋一「最近海外の新聞を読んでいても、温家宝さんの発言を聞いていても、どうも中国国内で銀行に対する批判がものすごく強まっている。

でそれがまあ、銀行のトップや銀行員の給与が高いっていうことにあわせて、銀行が暴利を貪っている、銀行が中小企業に金を貸さない、国営企業にしか貸せていない。

温家宝さんが国営企業改革をやっている真反対を銀行がやっていて、だから温家宝さんと銀行の仲が悪いのかなあっていろいろ思ったりするんですが、銀行に対する中国における批判をどうご覧になりますか?」

柯隆「重要なポイントなんです。

すでに伊藤さん、答えをおっしゃったんですが、中小企業のファイナンスが、なかなか今難しくて、ようするに中小企業に正規の銀行は貸さないんですよ。担保の資産が少ないものですから。

これ銀行の立場にたってみれば当然の話でして、日本でも中小企業信用保証制度とかいろいろな制度がありまして、それで助けているわけですが、中国ではそういう制度がないまま銀行に対して貸しなさいと言われても、これ無理ですよ。正直。

温家宝が言おうとするのがようするに中小企業のファイナンスを強化しようと。だけどそれをいくら叫んでも誰も動かないので、『貸さなければ大銀行、つまり国有銀行を解体するぞ』と、ある意味で脅迫みたいな話をしている。この言い方は別として、問題意識としては間違っていない。

ただし、今、彼に残されている時間は一年しかないので、彼の力で国有銀行と対立して、例えばそれを改革するとかは、たぶんできないでしょうね」

伊藤洋一「今、柯隆さんの話で面白いなあと思ったのは、中小企業は担保がないからっていう話になりましたよね?

担保ってなにかなあと考えた時に、日本は土地ですよね? でも中国の土地ってほとんどは国のものじゃないですか? その使用権を60年とか買って借りているわけですよね? 中国の場合、担保ってなんですか? 銀行融資の担保になるものってなんですか?」

柯隆「まず土地ですね。商業地だと50年、宅地だと70年。これで査定をして、じゃあいくらぐらいだと。

そして、その上の家屋の部分があります。さらに機械だとか、もっというと民営企業だからその社長さんの家のベンツだとかBMWだとか何年乗って時価でいくらぐらいだとか、全部査定して担保に出すんですが、だいたいあてにならないんでね」

伊藤洋一「じゃあね、例えば中小企業が伸びていきませんよと。

戦後の日本を考えると例えばソニーとかもそうなんだけれど、中小企業が伸びたからこれだけ経済が発展したといえますよね? そうすると、中国は昔からの国営企業が依然として非常にドミナントな(支配的な)ね、経済のプレイヤーだとするとですね、今は海外の投資がいっぱい入ってきて生産とかそういうのが加速していいけれど、じゃあ次の成長の芽がなくなりつつあるといえませんか?」

柯隆「一つ数字を申し上げると、中国の民営中小企業、中小企業はたいてい民営なんですが、設立されてから倒産するまでの寿命がね、去年調査がありまして、平均で3年半」

伊藤洋一「まあ、そうかなあ。中小企業ってどこの国でも倒産もするし、成長する可能性もあるし」

柯隆「ただ、平均値がこんなに短いのは中国だけです。

なぜ倒産するかって言うと一つが資金繰りが難しい。

中小企業が倒産した場合何が不都合かっていうと、技術が蓄積されません。東京の大田区あたりの中小企業は小さいけれどいろいろ素晴らしい技術を持っている。こういう企業が何十年もやっている。

中国はそれがないから技術が蓄積されないので、中ぐらい以上の企業はそうするとなにをするかっていうと、コピーするんです。いわゆるパクリですよ。

小さい会社で一生懸命ひとつの技術だけ磨いて、それで中ぐらいの会社におさめていけば、経済がね、産業が良い循環に入っていきますが、今、逆転しています。なかなかマクロ経済が、産業が難しくなっている」

伊藤洋一「僕は日本の経済に対して、系列とか批判的な声もあったんだけど、あれはようするに、ある意味長い関係の中で技術を温めてきたっていう面もあるわけですよね? 今の中国みたいに企業ができても三年半でプッツンプッツン切れていたら、最後には粘着力のない経済になっちゃうんじゃないかと思うんですけれどね。

今そういう危険性ありますかね?中国は」

柯隆「危険性どころがそれが出てきているからですね、日本の系列が私は良かったと思うんですよ。いろんな意味で。

だからあれを性急に系列契約を解消して、それで今となって上の方に影響が来ているわけですよ。親会社の方に。

今の中国は、自動車にしても電子とか機械を見ていても、日本の系列みたいにケアしながらみんなでこの一つの部品の技術を開発していくというのがないから。三年半で消えていくわけですから。

また次出てきますよ。だけどこの状況の中では産業技術が生まれてこないんですよね」

伊藤洋一「会社は倒産すると技術者が散っちゃいますからね。技術が散るっていうことですからね」

柯隆「それよりもむしろ会社のほうがどんどん経営の戦略がショートターム、単視眼的に、近視眼的になっちゃうんですよ」

伊藤洋一「でまあ、それがミクロな話だったんですけれど、マクロ的に言うとね、成長率を温家宝が7.5%に下げたっていうのは、その時僕が思ったのは、あ、柯隆さんが『中国の成長率が7%を割った時、中国に失業問題が大量に起きますよ』っていってたのをずっと覚えていて、7.5か、すれすれだなあという風に思ったんですけれど、そこまで下げないと、そこまでのリスクを犯さなければいけないほど中国の高成長の弊害っていうのが出てきたんですか?

つまり10%とか成長することよりもむしろ、格差が広がったっていう」

柯隆「今までの目標は8%でしたよね? それで今回初めて7.5%でいいよといわれる。

何を言おうとしているかって言うと、すなわち急いで10%とか9%とか目指さなくても産業構造の転換をしようと。

構造転換しなければ経済成長は持続不可能と、サステナブルじゃないと、そういうふうに彼は言おうとする。

でも実際7.5%になっていく可能性は限りなく小さいと思います。もっと高いんですよ。ちなみに中国の経済成長のパターンはだいたい年初は低くて後ろへいくほど公共事業などをやるから上がっていく」

伊藤洋一「それじゃあ、もっと高くなるじゃないですか。9%に近づくと。」

柯隆「そう。8.5%から9%の間で落ち着くから、その7.5%の意味が無い」

伊藤洋一「評価体系が、例えば広東省の汪洋さんも見てみると、『10何%成長させたから』っていう評価体系になっているじゃないですか? そうすると『7.5%でいいよ』っていっても本当に7.5%の成長にしたら中央から全然認められないっていうリスクもありますよね?」

柯隆「そう。

中国の産業構造の分類がね、55種類ありましてね。我々たいてい全ての省を今まで十年ぐらいかけて訪問したら、すべての省がね、55分類全部揃っているんです。

本来は補完的に『これはうちはいらない、これは隣だ』とお互いが補完しあう必要があるんだけれどみんな揃っているんです。川上から川下まで。この産業構造の無駄のところがどれだけあるのか、ですよね」

伊藤洋一「だからですね。自動車を作りはじめたらみんなが自動車を作り始める。毛沢東の時ね、『鉄鋼作れ』って言ったらみんなが鉄鋼作って供給過剰になってバタバタつぶれる」

柯隆「だから水のない内陸で鉄鋼なんか作っても意味が無いわけですよ。たくさん水を消費するでしょ?だけどみんな持ちたいわけですよ」

伊藤洋一「ということは産業構造の変換っていうのは、国全体でですね、つまり省ごとじゃなくてどういう産業をつくるかっていうことをしっかり確定して、国全体として調和のとれた産業構造をつくるってのがまず第一と。

やっぱり労働集約型の産業から、お隣さんを利用しながら賃金の上昇に耐えられるような産業を作っていくっていくことだと思うんですけれど」

柯隆「たぶん、無理です。省ごとにやっても無理です。

こういう産業構造とか産業政策をやるときに何が重要か。まず国が、まとめてやれないんです。大きすぎて。だから地域ごとに、例えば華東地域、5〜6ぐらいの省をまとめて一つのエリアにする。それから華南地域なら華南地域。この地域ごとにフルセットの産業構造でもいいよと。国全体でやるとだれも聞かないので。

日本の道州制じゃないんだけれど、地域ごとに例えば『華南地域一つ』っていう風にまとめていくようなやり方って、もう今の胡錦濤と温家宝は一年しかないのでできない。

だから次の習近平なったときに、彼がどこまでカリスマ性をもつかにもよりますけれど、もしやるとしたらこれしかない。

やらなければ永遠に31ぐらいの省があって、その全部が55種類の産業分類を全部持っていると、これは悲劇が起きます。環境負荷が重すぎて、エネルギーとかの資源の効率性がものすごく悪くなりますからね」

伊藤洋一「全国的な経済政策を作る必要がものすごく次の10年の中国にあるっていうことなんですが、李克強はどういうとこを得意にしていたとかよく知っているんですけれど、習近平って何を得意にしてここまで上がってきたんですか?経済強いですか?」

柯隆「これは難しいご質問で。彼の一番の長所が性格の良さ。あんまり強烈な男じゃない。ようするに長老が指名する後継者っていうのは往々にして性格が穏健な人が選ばれますよね。たぶん伊藤さんみたいなのはだめ(笑)」

伊藤洋一「だめだろうねえ(笑)、柯隆さんもダメじゃない?(笑)」

柯隆「辛辣な人はだめなので、だから彼はそこの長所が、逆に短所でもある。すなわち、改革とか政策を実行する力が弱い。そこが難しいと思います」

伊藤洋一「だってねえ、みんなの機嫌を取りながらやってきて、神輿に乗ってきた人なわけだから、トップになった途端に急に『お前これやれ、こうしろ、これは駄目だ』みたいに言えないですよね」

柯隆「そう。だから中国にとって本当に必要なのは朱鎔基(江沢民時代の総理)」

伊藤洋一「あの人は強烈でしたね」

柯隆「怖い(笑)。私、直接会ったことがあるんですが、あの人は怖い。でもね、これぐらいじゃないと改革は進まない」

伊藤洋一「ということは次の10年の中国も改革が進まないってことじゃないですか?」

柯隆「あまり期待しないほうがいい」

伊藤洋一「そうすると何が起きます? だって成長率が高い、豊かになるものは豊かになる。都市の農民工は豊かにならない、そうすると格差が広がる、公安費が増えて暴動が増える、そういう図式ですか?」

柯隆「やはりまず一つ、暴動がたくさん起きてきます。それからインターネットを通じて批判が強まる。

でも、ある臨界点に向かって行くと思います。臨界点というのは改革せざるを得ない。

要するに今までのパターンだと、今度の政権のトップがみんな二期あるんです。10年間。

だけど今度の次の政権で10年間やれるかっていうと、全員が10年間はできない。やっぱり臨界点に近づくと、だれかのせいにしなければいけないので、それで一部の人は『お前のせいだ』って倒していって」

伊藤洋一「習近平は切れないじゃないですか」

柯隆「習近平は残って、次の総理がまだ誰なのか秋になってみないとわかりませんが、それによって、場合によっては途中で変えたりする、というのもあるし。

それから5年後の胡錦濤がどこまで身体的に弱まるかってことですよね。元気にやっている長老がいると、やりづらい部分はありますよね」

伊藤洋一「日本は年取った国会議員まで辞めさせましたよね? やっぱり長老ってそんなに力があるものですか?中国の社会では」

柯隆「鄧小平の時代が参考になると思います。

彼が毛沢東と一緒に戦った長老たち辞めさせたんですけれど、その時のやり方が巧妙で、顧問委員会っていうのを作ったんですよ。

みんな顧問、アドバイザー。で、その時顧問に対して一点約束したのが『お前らが今まで享受してきた、例えば特別供給システム、ようするに食料品、おいしいもの、これは毎日供給されます。車も今までと同じような、住んでいる家も今までと同じように家賃もとらない。これ物質面のそういった優遇は全部約束して、そのかわり顧問委員会に入って、持っていた行政的な権限を全部切り離したんです。

で、みんなそれでうっかりして入った後に気がついて、丸裸。

なぜならこの檻の中に鄧小平自身が入ってたんです。『あ、鄧小平が入ったんなら俺らも入ろう』と入ったらもう出られなくなっちゃって、もちろん死ぬまでは物質的な優遇は享受していたんですけれど、それで胡耀邦と趙紫陽がその後、改革を少しやったんですね。

それがなければ長老たちが邪魔だったわけです。あの時代の全人代の映像があればわかるんですけれど、(長老支配のころは)二人ぐらいの助手が(長老を)かついで、こう・・・。

それが途中から若返りしたんですけれど、それぐらいやらないとね」

伊藤洋一「それで、世界的には相変わらず中国経済が減速する、しないで株式市場が上下したりしていますけれど、一部にはまた中央銀行が緩和をするんじゃないかっていう話もするんですけれど、金融政策はどうご覧になりますか?」

柯隆「緩和するかっていうのは、伊藤さんだから釈迦に説法なんですが、金利を引き下げて緩和することはたぶんできない。

今の中国は。そこまで金利の自由化はまだ進んでいないし、どちらかというと、アメリカのQE2(量的金融緩和の第2弾)のような量的緩和、日銀も前やっているんですが、ああいうのを今年の第二四半期以降やってきて、それで中小企業を助けると。だからさっき申し上げたように後半はですね、特に下期に入ると成長率が少し上がっていく」

伊藤洋一「インフレ率上がりませんか?」

柯隆「インフレ率はどっちみちあがるんですよ。

ただ、どこまで上がるかかな。今3%ちょっとぐらいなんで、今は全然平気ですけれど、問題なのが秋を過ぎてから。

特に8月ぐらいから食料品価格はどう上昇するのか、それからガソリン、石油価格、これがどんどん上がってきますから、そうするとビニールハウスとか化学肥料とか農薬とかこういう資材が全部上がっていくのでこれをどう抑えるのか、なんですよね」

伊藤洋一「ということは、あいかわらず中国は政治的にも経済的にも難しい舵取りになってくる」

柯隆「でも今年一番プライオリティが高いのはなにかというと、成長率を少し上げること。

胡錦濤と温家宝にとって花道が欲しい。やめる年がこんなに低いとか(笑)」

伊藤洋一「どこの企業もそうですよね(笑)

最後にもう一つ聞きましょうか。アップルがねえ(笑)。あれはあの企業はお金狙いですか?iPadの」

柯隆「iPadの訴訟の話ですよね。

中国側のあの会社は倒産したので、明らかにお金が欲しいと。今もっとも悩んでいるのが中国政府、裁判所」

伊藤洋一「どうくだしていいのかと」

柯隆「あんまり変なやり方をすると、ようするにアップルをいじめることで、在中国の外資企業が明日は我が身だからね、そこをみんな悩んでいるんですよ。

でも私が中国のそういった法律の専門家たちと議論してね、やっぱり彼らの中で一部ですけれどアップルにもね、落ち度があったと。

これ中国に進出する以上、最初からこれ完全に掃除しておかなければいけなかったんじゃないかと。気持は悪いけれどもやっぱり掃除しておかなければならない、という言い方ですね」

伊藤洋一「最近僕もTwitterに『中国本土の人はiPadがなかなか買えないので香港に来て買っています』ってのがきましたけれど」

柯隆「こないだ香港から上海に飛行機で入った時に、私、毎回スーツを着ているものですから、荷物をチェックされることはほとんどないんですが、めちゃくちゃチェックされましたね。手荷物まで」

伊藤洋一「iPad持ち帰っているんじゃないかと」

柯隆「そう。大きなカバンを持っていてね、で幸いその日はiPadじゃなくてノートパソコンだったんで。

だけど運が悪くて香港で買った本が一冊見つかりまして『これは何だ』っていわれて、没収されそうだったんです。

ただその本が薄煕来の重慶事件の本じゃなかったので。それも買おうかと思ったんだけれど、その本は文革の回顧録だったので、15分ぐらいブラックリストと照合して、持ち込んではいけない本のリストがあってね、そこになかったから返されたんですよ」

伊藤洋一「最後にオチまでつきましたけれど、あいかわらず興味深いお話をお伺いできてよかったです」

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