2012/09/15

中国歴史小説の定番 「小説十八史略」 陳舜臣

今年の4月頃から半年ぐらいかけて、ようやく陳舜臣「小説十八史略」を全巻読み終えました。

再読のはずだったのですが、読んだのが中学生のころだったので、内容をほとんど覚えておらず、初めて読んだような新鮮さで楽しめました。

題名の「十八史略」とは、元の曾先之によってまとめられた初学者向けの中国の歴史読本で、三皇五帝の伝説時代から南宋までの十八の正史を要約し、編年体で綴ったものなのですが、陳舜臣の「小説 十八史略」は扱う時代こそ原典と同じものの、内容は陳舜臣の完全なオリジナルで、伝説の時代から南宋の滅亡までを陳舜臣の独自解釈によって小説仕立てで描いたものです。

陳舜臣は「中国の歴史」という本も書いているのですが、「小説十八史略」の方が物語仕立てでとっつきやすいので、最初はこちらを読むのをオススメします。

もとが雑誌連載というのもあってか、最初から通して読む必要はなく、興味のある時代から読んでも問題ないような作りになっていますので、今回はどの巻にどこらへんの時代が描かれているかを紹介します。



まずは第一巻。神話から始まって、殷(商)、周、春秋、戦国とすすんで秦の始皇帝の中国統一までが一気にこの一巻で語られます。かなりハイペースです。

三国志を読んだ人ならご存知のように、中国の人はしばしば過去の出来事や人物をあげて物事を説明したり、考えたりするのですが、それらがこの巻に収められた時代のエピソードである確立はかなり高いので、この巻だけ読んでおいてもいいぐらい重要度の高い巻です(別に他の重要度が低いというわけでもないのですが)。

長い時代を一冊に凝縮してあるだけあって、「呉越同舟」「臥薪嘗胆」「鶏口となるも牛後となるなかれ」などなど、日本人にもお馴染みの故事成語や有名なエピソードの宝庫で、非常におもしろいです。



続いて第二巻。始皇帝の死から楚漢の戦い、前漢の成立、そして漢の武帝の即位あたりまでがこの巻です。年数で言うとわずか100年未満ですので、重要な歴史的事件の数は少ないです。

この巻の読みどころはなんといっても司馬遼太郎の小説でも有名な、項羽と劉邦による楚漢の戦いです。陳舜臣による「項羽と劉邦」もとてもおもしろいです。

これを読めば、劉邦の天下統一後の漢のごたごた(功臣の粛清、匈奴に敗北、劉邦の死後、彼の妻の呂后とその一族の専横など)もわかります。


第三巻。漢の武帝の続きから始まって、王莽の簒奪による前漢の滅亡、新の成立とその後の混乱期、光武帝による後漢の成立、そして小説「三国志演義」の幕開けである後漢末の黄巾の乱、董卓の台頭とその死ぐらいまでです。

この巻も年数にして100年もないスローペースです。わざわざこの本で三国志を読みたい人も少ないでしょうから、そのあたりはさらりと流してもよかったのではないかと思うのですが、一通り紹介されています(もちろん「三国志演義」ではなく、正史「三国志」ベースで)。

この巻の前半部は前漢、後漢の内部抗争が主ですので、退屈な巻というのが個人的な感想ですが、漢は中国史全体でかなり重要な位置を占める王朝なので、とばすわけにはいきません。


第四巻。呂布の最期あたりから始まって、魏晋南北朝時代(五胡十六国)、隋の天下統一までがこの巻です。この巻で一気にペースがあがり400年ぐらい時間が進みます。

前半は三国志が好きな人ならおなじみのお話ですが、これを読めば、晋の統一後の混乱期のグダグダがよくわかります。その抗争の激しさは、後漢末の混乱がかわいくみえてしまうぐらいです。

新しい人物があらわれては消えて、が繰り返されるので、ある程度予備知識がないと知らない固有名詞が次から次へと出てきて読んでいてしんどい巻ではあります。

描かれている年数は長いものの、ほとんどが戦乱の時代ですので、歴史的に重要なエピソードは少なめで、この時代を特に知りたいという人や三国志のその後に興味がある人向けです。


第五巻。隋の滅亡と唐の成立から始まって、中国史上唯一の女帝である則天武后の即位、そして日本人にもおなじみの玄宗皇帝と楊貴妃の時代、安史の乱あたりまでです。年数にして200年ちょっと。またすこしペースダウンしました。

唐は遣唐使などの関係で日本にとってもなじみが深く、言うまでもなく非常に重要な王朝なのですが、この巻は宮廷内闘争が中心で、ちょっと退屈な巻ではあります。



第六巻。最終巻です。唐末から五代十国を経て宋の成立、金の侵攻、南宋の成立、モンゴル帝国の台頭と南宋の滅亡まで。最後はハイペースで、年数にして500年ほど一気に進みます。

宋というのは中国の近世のはじまりとも言われていて、現在の中国の基礎となっている王朝ですので、現代中国を理解する上でとても重要な王朝なのですが、一般の日本人にとっては宋以後の中国は、史記で描かれた時代や三国志、隋、唐となどと比べるとなじみが薄いので、この巻だけ読んでそこらへんを補完するのも悪くないかなと思います。

長い時代がこの一冊に凝縮されていますし、ここらへんの時代を扱った代表的な作品というのも少ないので(「水滸伝」は歴史物語ではないし)、この巻だけ独立して読む価値のある一冊だと思います。

以上、各巻の簡単な紹介でした。個人的には一巻と六巻が特にオススメです。

言うまでもないことなのですが、(中だるみして退屈な部分があるのも事実ながら)、非常におもしろい小説ですので、読めば中国の歴史が好きになることうけあいです。

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