2014/12/23

矢野大輔「通訳日記 ザックジャパン1397日の記録」

通訳日記 ザックジャパン1397日の記録 (Sports Graphic Number PLUS)

矢野大輔「通訳日記 ザックジャパン1397日の記録」を読みました。

ザッケローニの通訳を務めた矢野大輔さんがつけていた日記をまとめたもので、評判通りの面白さでした。

4年間の記録ですのでボリュームはそれなりにあるのですが、日記ですので、すいすいと読めます。

監督でもない、選手でもない、通訳という、選手と監督に最も距離の近い第三者というポジションから見た日本代表という、読者目線に近いところから日本代表の姿がわかるのが本書の魅力です。


本番のワールドカップで味噌をつけてしまいましたが、「歴代最強」の呼び声も高かったザックジャパンの裏側というのは、それだけでも興味をそそる内容ですし、そもそも代表監督の仕事について書かれた本自体あまりないので、代表監督の権限はどこまでで、限られた時間の中で、どれぐらい代表チームにコミットメントできているのかなど、なかなか外からうかがえない部分が、通訳を通して客観的にわかるという意味でも有意義でした。

普段我々はテレビで試合を見ながら無責任にあーだこーだと、メンバー選考や戦術、采配などを批判したりしているわけですが、この本を読むと、サッカーファンがテレビを見て思う程度のことは、ザッケローニももちろん承知で、改善の努力をそれこそ就任直後からずっとしつづけていたのがわかりました。

例えば、攻めあぐんだ時に苦し紛れの横パスではなく、縦に速いボールを入れていかないとだめだとか、味方の足元ではなくてスペースにパスをして、そこにパスの受け手が走り込まないといけないとか、香川はペナルティーエリア内に入ってこそ相手の脅威となるのだから、後ろに下がってボールをもらいにいったらダメだとか、そういった素人目で見て「どうしてそのようにしないのだろう?」っていうことは、たいていザッケローニも指摘しているのですが、それでもなかなか直らないのは、当事者からすると頭でわかっていても、そんなに簡単にできるものでもないということなんでしょうね。

そしてザッケローニといえば3-4-3。

理屈で言えば攻撃に人数をかけられるので、いざというときの切り札になりうるフォーメーションで就任当初は有力なオプションとして期待されていたのですが、結局最後までその完成を見ることはありませんでした。

この通訳日記の中でもなんどもこのフォーメーションをザックがどれだけ力を入れて指導していたかという描写が出てきます。そして、これが短期間で簡単に習得できるものではないということも繰り返し述べています。しかし、結局本番で使うことはなかったわけで、最終的にどのタイミングでどういった経緯であきらめることになったのかについて、特に言及されているわけではないのが少し物足りませんでした。

そして本書で一番残念だったのは、ザックジャパンについて一番知りたかったブラジルワールドカップ中、チームになにが起こったのかについてそれほど詳細な記載がなかったところでしょうか。

誰が見ても明らかなように日本代表はエースの本田や香川の調子がワールドカップ直前あたりから目に見えて悪くなっていましたし、それに引きずられてか他の選手の動きもどうも今ひとつのように見えたのですが、それはなにか理由があったのか?、コンディション調整の失敗という説も出ているがそれについてはどうなのか?、ギリシャ戦でそれまでほとんどやったことのなかったパワープレーを試合終盤で連発したのはなぜだったのか?などそこらへんの当時だれもが疑問に思った点についてのザックの判断や感想について、特になにも書かれていなかったのは、ちょっと不自然なように思えました。

まあ、そういう物足りない部分もないではないのですが、全般的にはとても面白く、本書を読むと、ザッケローニの人間性の素晴らしさや仕事に対する熱心な態度、そして確かな実績に裏打ちされた言葉の説得力など、改めて日本にとって良い監督に来てもらえてよかった思わされます。

特にワールドカップメンバーの発表直後、メンバーに漏れてしまったけれど、それまで日本代表に貢献していた中村憲剛、細貝萌、前田遼一、駒野友一、李忠成の5人に対して、ザッケローニが通訳の矢野さんに、「これまでありがとう」というメッセージを伝えて欲しいと頼むくだりは、彼の細やかな気遣いがよく表れていましたし、またそのメッセージに対する落選した選手たちの反応のくだりも、なかなか感動的でした。

そして、ザックと選手たちとの関係性を通してわかる各選手の個性も本書の読みどころでしょう。なかでも度々登場する本田圭佑のサッカーに対する真摯さと、ザッケローニの長谷部誠に対する信頼は、ある程度は知っていたもののこれほどまでのものだったのかと、唸らされました。

そうやって読んでいると、どんどんザックジャパンのメンバーやザックに感情移入していってしまうのですが、あらかじめアンハッピーエンドで終わってしまうのを知っている物語ですので、読みすすめるにしたがってだんだん悲しくなっていくのがつらいところではありました。

本当に、ここまでやって、それで結果が出ないんですから、勝負の世界は厳しいですね。

これでワールドカップの結果が良ければ最高だったのでしょうけれど、残念な結末になってしまったからといって、この本の価値が下がるものではありません。4年間ザックジャパンを見てきた人にはたまらない一冊と言えるでしょう。

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