2012/02/14

河合敦「岩崎弥太郎と三菱四代」

私は見ていないのですが、今年の大河ドラマ「平清盛」は視聴率で大苦戦みたいですね。いいネタがないなら次の大河はこの人でやったらどうかと思いました。


本書は、一昨年の大河ドラマ「龍馬伝」では準主役といってさしつかえない活躍をしていた三菱の創業者岩崎弥太郎とその子孫の史話です。

「龍馬伝」の中で描かれる弥太郎の破天荒な性格と行動はあまりにも漫画的で、大部分大河ドラマの創作だろうと思っていたのですが、これを読んでびっくりしました。龍馬と幼馴染という設定こそまったくの創作だったのですが、それ以外の部分では史実にかなり忠実なドラマ化だということがわかったからです。

例えば、弥太郎が江戸に遊学中に、父の身に大変なことがあったという知らせを受け、土佐まで自分の足で走ってわずか16日で着いたという話や、役人の不公正な裁きに腹を立て、奉行所の壁にそれを非難する落書きを書いたために牢に入れられる話、その牢の中で出会った樵(きこり)にそろばんや商売のやり方を教えてもらい、それをきっかけに商売に目覚めた話、そしてせっかく吉田東洋に抜擢されて藩命で長崎へ派遣されたのに、遊郭の女に入れ込んで公金に手をつけて首になってしまう話など、全て実話なのです。

この人を主役にして大河ドラマをつくったら面白いのではないかと思ったのは、そのキャラクターのおもしろさの他にも、いくつか理由があります。

一つは彼が生きてきた時代です。

幕末の天保五年(1834年)から西南戦争、大久保利通暗殺後の明治18年(1885年)まで生きているので、幕末の動乱はもちろん、いままでの大河ドラマではあまりスポットがあたらなかった西南戦争後の明治時代を描くことが可能なのです。司馬遼太郎の小説でいうと「竜馬がゆく」と「翔ぶが如く」を足してさらにもう少し延長した長いスパンの大河ドラマにすることが可能です。

彼が直接交流をもった人物の豪華さもみのがせません。

幕末であれば、坂本龍馬や後藤象二郎、明治維新後も福沢諭吉、大隈重信など歴史上超一流の人物が彼の人生をたどると次から次へと出てきます。

そしてなにより、この人の波乱万丈な人生そのもののおもしろさです。

土佐の極貧の家の下級武士に生まれ、必死の努力と才覚で道を切り開こうとするのですが、これがまた笑ってしまうぐらい逆境につぐ逆境なのです。そんな試練を弥太郎は毎回、不屈の精神で乗り越えていきます。

最終的に弥太郎は三菱商会をたちあげ、これを日本一の郵船会社にするのですが、これも国の妨害で潰されそうになり、必死で抵抗しているさなかに壮絶な最期をとげます。

余計な脚色をせずに彼の人生を忠実に描くだけで、波乱万丈、幕末から明治にかけての時代の空気がよくわかっておもしろくなることうけあいです。

そして本書の後半部では、創業者の弥太郎があまりに派手なので目立たないものの、彼に負けず劣らず優秀な弥之助、久弥、小弥太というそれぞれタイプの違った後継者たちが、三菱の危機をいかに乗り越え、発展させていったかについて紹介しています。

特に二代目弥之助は、弥太郎の汽船会社(三菱商会)を継いだものの、政府の妨害により廃業においこまれてしまいます。しかし弥之助はそこから巻き返し、事業内容も業種も汽船会社とは全く違う「三菱社」を興して、戦前の三菱財閥、戦後の三菱グループの基礎をつくります。この人の人生も弥太郎に負けず劣らずドラマティックです。

実業家のために日本史においてそれほど大きくは扱われず、幕末、明治を題材にした物語でもそれほど注目されることのない岩崎弥太郎とその子孫たちですが、その人物や足迹は非常に魅力的でした。

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