2014/11/06

因果はめぐる水車 映画「本陣殺人事件」 高林陽一監督

本陣殺人事件 [DVD]
映画「本陣殺人事件」高林陽一監督

DVDにて高林陽一監督の映画「本陣殺人事件」を見ました。



もちろん、原作は横溝正史。金田一耕助役が中尾彬。


金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件 角川文庫
横溝正史「金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件」角川文庫 [Kindle版]
(いろいろ版はあるのですが、やっぱり角川文庫のこの表紙ですね)



横溝正史ブーム以前、1975年の映画ですので、「犬神家の一族」や「八つ墓村」のような豪華さはなく、低予算でこじんまり作りこんだといった印象の映画です。



残念ながら殺人事件は一回しかおこらず、多くの視聴者が横溝作品に期待しているであろう「山狩り」も「たたり」も「逆さ吊りの死体」も出てこないので、物語的には少々地味なのですが(せいぜい三本指の男と、金田一もの定番の頭の少し残念な若い女性が出てくるぐらい)、妖しく美しい画面と、音響や演出に凝った芸術性の高い映画になっていて、エンタメ性抜群で良くも悪くもケレン味たっぷりにおどろおどろしい側面を押し出した「犬神家の一族」や「八つ墓村」とはひと味違った作品になっています。

原作の「本陣殺人事件」について、ちょっとだけネタバレで紹介すると、この作品のポイントは、

1,名探偵金田一耕助の記念すべき初登場作品である
2,犯行の動機が、戦前という時代背景特有のもので、現代的ではない
3,舞台が日本家屋ならではの、凝ったしかけの物理トリックがある

あたりだと思うのですが、

特にこの3番目の物理トリックというのが小説を読んでいてもイメージがしづらかったので、是非一度映像化されたものをこの目で確認したい思ってこの映画を見ました。

映画ではこのトリック部分を省略することなく、しっかり映像化されていたので、それだけで見たかいがありました。

この物理トリック、仕組みを作るのに手間がかかりすぎる上に不確実すぎて、実際には使いものにならないと思うのですが、このバカバカしい仕掛けを大まじめにやりきっていることこそが、この作品の醍醐味なのです。

低予算作だったためか、時代背景を原作のような戦前ではなく、現代(といっても1975年当時の「現代」ですが)にするという大胆な改変があり、金田一耕助はアメリカ帰りという設定。ジーパンにサングラスといういでたちです。しかし、これが違和感バリバリかというと、意外にそうでもなかったのは中尾彬の名演のおかげかもしれません。

そして、時代背景を現代にもってくることによって、それでなくても時代がかった犯行動機に、さらに無理がでてきそうなものですが、この部分を映画では犯人役のキャラクターのエキセントリックさを丁寧に描写することによって、個人の資質としてこの動機がありえるのだという風にアレンジしているのは、なかなかうまいなあと思いました。これも犯人役の田村高廣のおかげで、確かにこの人物なら、そこまでやりそうだと思わせてくれます。

原作自体が比較的短めの中編であったこともあって、時代や金田一耕助の服装を原作から変えているにもかかわらず、エッセンスは非常に原作に忠実で、良い映画だと思いました。
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