2014/11/16

前衛絵画は金になる 西岡文彦「ピカソは本当に偉いのか?」 新潮新書

ピカソは本当に偉いのか? (新潮新書)

200ページ弱の新書で、いかにも内容が薄そうなタイトルですが、案に相違して非常に面白かったです。

アートに興味のない人なら誰しもが一度は疑問に思うであろう「ピカソのあの変な絵がなんであんなに評価されるの?」「馬鹿みたいに高額なのはどうして?」といった疑問にこの本は、ピカソの生涯と、現代美術史を通してわかりやすく答えてくれます。


この本の読みどころは大きくわけて2つ。

まずはピカソという人物の面白さです。その画才の天才性は言うまでもないのですが、その破天荒な性格と派手な女性遍歴。ピカソだからこそ許されるそのクズっぷりのスケールの大きさ。

その一方で、ピカソは芸術家史上稀にみるほどの経済的成功を存命中に成し遂げているのですが、そこには画商の顧客の趣味に合わせて画風を変えた作品を提供したり、画商との交渉前に、妻を交渉相手に見立てて入念にリハーサルをしてから臨むような周到なところもあり、世間で流通している芸術家ピカソのイメージ一辺倒ではないのです。

そして、本書のもう一つの魅力は、ピカソのような「パッと見てうまいかどうかわからないような絵」を良しとするような価値観がどのようにして生まれたのかという歴史的経緯についての解説です。

これが西洋美術史の解説によくある「芸術家たちがより新しい表現や芸術性を求めて」みたいなかっこいいきれいごとではなく、16世紀の宗教改革(教会というスポンサーが弱体化し、宗教画の需要が減ってしまった)や18世紀の市民革命(肖像画の主要顧客であった王侯貴族がいなくなってしまった)、あるいは写真の発明(単に写実的な絵はどうあがいても写真に勝てなくなってしまった)、「美術館」の成立(絵が実用的なものから、鑑賞のみを目的とする美術品に変ってしまった瞬間)などといった歴史の転換点において、絵画が切実に変わらざるを得なかった背景があったことがわかり、なるほど、すごい説得力だと目からうろこでした。

というわけで、普段美術展などに足を運ぶようなアートにどっぷり使っている人よりもむしろ、「芸術ってなんかうさんくさいなあ」みたいに、アートにあまり縁がなくて、少し斜めに見ているような人にこそ、オススメの本だと思いました。

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