記念すべき第一回は加藤徹「貝と羊の中国人」。中国文化論です。
題名の「貝と羊」の「貝」とは華僑の商才に象徴される中国の現実主義、「羊」とは儒教や共産主義に象徴される中国人の熱烈なイデオロギー性をそれぞれ示しています。本書はホンネとしての貝の文化と、タテマエとしての羊の文化という異なる二つの性向が血肉になっているところに中国人の強みがあるとして、中国人を様々な角度から論じています。
中国について考える時、日本人と中国人では考え方が違うという前提を知っておくことは必須です。本書は特定のイデオロギーにとらわれることなく、文化、歴史、社会などを俯瞰してわかりやすく中国人の特殊性を教えてくれるので、中国理解の入門書としてオススメです。そして、日本は歴史的に中国に非常に大きな影響を受けていますので、中国を理解することによって、日本に対する理解も深めることができます。
では、内容を章ごとに紹介していきます。
第一章
貝の文化 羊の文化
有形の物材に関わる漢字「財」「費」「貢」「販」を貝の文化、無形の「よいこと」にかかわる漢字「義」「美」「善」「養」を羊の文化とする。
中国人の祖型は「殷(商)」と「周」という二つの民族集団がぶつかってできた。
殷人は農耕民族的、多神教的、有形の物材を重んじ、道教的(=貝の文化)
周人は遊牧民族的、一神教的、無形の「主義」を重んじる、儒教的(=羊の文化)
西洋の商人は、書面に書かれた「契約」を重んじるが、中国の商人は、無形の「信義」を重んずる。中国の一流の商人は「貝」の商才と「羊」の倫理をあわせもつ。
本書では現代の中国人の「羊」と「貝」の使い分けについて、2005年の反日デモを例にあげて説明しています。
政府の愛国教育は「羊」、日本との経済関係を維持したいという本音は「貝」。
愛国教育によって起こった反日デモも、経済に悪影響が出そうになると、
政府は頃合いを見計らって反日デモを封殺。
民衆も風向きの変化を敏感に感じ、ピタリと反日デモをやめています。
こういうところに中国人のホンネとタテマエの使い方をみることができるます。
第二章
流浪のノウハウ
中国語では「泊まる」と「住む」を区別しない(ともに「住」)。
中国史は流民の歴史でもあった。
日本史上、百姓一揆によって転覆した政権や王朝は一つもない。
中国は、広大な大陸で起きる農民反乱の持続期間は数年、参加人員は数百万、移動距離は数百キロから数千キロに及ぶのが常。中国史上、いくつもの王朝が農民反乱によって滅亡し、そのたびに中国の人口分布地図は大きく塗り替えられた。
中国史には流浪の英雄が多い。
晋の文公、孔子、劉備、孫文、毛沢東など。
日本の場合は源義経のように流浪の英雄は先細りの傾向。
中国辞任の最大の強みは、秘密結社や互助組織など、ネットワークづくりの巧みさ。
華僑、華人の存在感。
彼らは用心深く「中国人」という自称を避ける傾向がある。
(「中国」には中華人民共和国というイデオロギーの匂いがあるため)。
第三章
中国人の頭の中
中国人は病院のそばに葬儀屋があってもそれを「合理的」と考える。
日本人はウェット、中国人はドライ。
中国人は「大恩」は忘れないが「小恩(お茶をおごってもらうなど)」はその場で感謝しておしまい。日本人のように後日改めてお礼をすることはしない。
日本人は「功」と「徳」を区別しない。中国人は区別する。
「功」とは、自分の職業や仕事を通じて、世のために働くこと。
「徳」とは見返りがないことを承知で人を助けること。
中国人からすると、日本政府の中国に行ってきたODAは「功」ではあるが、日本政府の外交戦略など思惑があるので「徳」ではないと感じる。
「徳」に対しては純粋に感動する。
縄張り感覚が発達している日本人とおおらかな中国人。
日本語の「和魂洋才」に対して中国語の「中体西用」
日本なら「魂さえあれば、形は変えても良い」
中国の場合、そうはいかない。西洋のものを用いる時も、体は中国のままでなければいけない。だから国体(共産党体制)も変えるわけにはいかない。
中国人を説得する秘訣は「直截的に正論を述べること」
中国人は思想や宗教や思考方法においても、大づかみ式合理主義を好み、分析的合理主義を敬遠する。インド仏教は高度に抽象的で分析的であったため、禅宗をのぞいて宋代で衰退、消滅した。禅宗が残ったのは難解で抽象的な議論を排除し「不立文字」を身上としたから。
長くなったので、続きます。
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