翻訳書だけでも数種類でている『金瓶梅』は長い小説で(岩波文庫だと全10巻、徳間文庫でも分厚い上下巻)、登場人物の数も膨大、しかも当ブログ「はじめての「金瓶梅」」でも何度か触れたように、波乱万丈なストーリー展開もなく、日常の些細な出来事を細かいディティール描写で延々書きつらねていく小説ですので、現代の小説に慣れた読者がいきなりこれを読んで面白がるのはなかなかハードルが高くて、挫折する可能性が高いと思われます。
ですので、もし『金瓶梅』の世界に触れたいなら、まず以下の2冊で概略をざっと知ることをおすすめします。これを読んだだけで、ストーリーはほぼわかりますし、作品の歴史背景、面白さについても丁寧に説明してあるので、へたすると、本編を読まなくてもこれで充分かもしれません。
この2冊を読んで、興味が出てから、翻訳書を読んでも遅くはないと思います。
まずは一冊目。
中国の五大小説〈下〉水滸伝・金瓶梅・紅楼夢 (岩波新書 新赤版 1128)
自分が『金瓶梅』に興味を持ったのは、これを読んだおかげです。
中国文学者の井波律子が、上巻で「三国志演義」「西遊記」、下巻で「水滸伝」「金瓶梅」と、これらの四大奇書に加えて、清代の小説「紅楼夢」の紹介をしています。
これを読めば、どれもとても長い作品である五大小説について、文学史的意義、あらすじ、その魅力などがわかります。特に「金瓶梅」や「紅楼夢」についてこれだけわかりやすく解説してくれる本というのは他になかなかないので、上巻ともども非常にオススメです。
巻末に各作品の章回回目(各話の題名)もついていて、資料としても役に立ちます。
そして、もっと『金瓶梅』に特化した解説本がこちら。
金瓶梅の解説本です。著者の日下翠は冒頭の「はじめに」で
「実を言うと、平凡社から出た『金瓶梅』(小野忍・千田九一訳)をはじめて読んだ時、なんと面白くない小説だろうかと感じた記憶がある。波乱万丈のストーリー展開はなく、時には退屈を覚えるほどであって、何故この小説が四大奇書の一つに挙げられるのか、不思議に思えたものであった。四大奇書の他の三作品がどれも抜群に面白いのとは対照的であった。(後略)」
と『金瓶梅』が予備知識無しに読むと、なかなか面白いとは感じにくい小説であることを正直に告白しています。
「その後、改めて真剣に読みなおす機会があった。その時評価が一変した。これは実にすぐれた文学作品だと、目をみはる思いがした。中国社会を理解するのに最適の書物であることはもちろんであるが、そのような実用の書としてなどより、はるかに価値のある、文学作品として極めて質の高い作品だと感じたのである。(後略)」
本書は、評価が180度変わったその理由を解き明かしていくというスタンスで書かれています。
そして、読んでいるだけではなかなか気づきにくい小説内の登場人物たちのささいなやり取りや、会話の裏にある深い意味を読み解いているので、事前にこれを読んでいると、本編がよりいっそう楽しめることうけあいです。
井波律子は『金瓶梅』の世界を物語の時系列にそって紹介するいわば編年体的な記述で紹介しているのに対して、日下翠は、各登場人物ごとに紹介する紀伝体のスタイルをとっているという違いも、おもしろかったです。
そして、いよいよ「本編を読もう!」という段になったら、翻訳書を手に取ることになると思うのですが、『金瓶梅』には現在数種類の翻訳書が出ています。
比較的簡単に手に入って一般的なものをご紹介。
金瓶梅 全10冊セット (岩波文庫)
全十巻。訳者は小野 忍と千田 九一。
平凡社の「中国古典文学大系」の『金瓶梅』も同じ訳者です。
岩波文庫と中国古典文学体系に入っているということで、おそらく一番メジャーな訳本がこれではないかと思います。
訳された年代が古いこともあって、完訳ではなくて、一部きわどい描写は、原文のまま残してあったり、削除されたりしているそうです。
金瓶梅〈1〉奸婦潘金蓮 (ちくま文庫)
全四巻。訳者は村上 知行。
第三書館から出ている「ザ・金瓶梅」という分厚い一冊本も、同じ訳者です。
この人の訳の特徴は、抄訳だということです。
原作のくどい描写や、ストーリー上あまり重要でない部分などをカットして短くしてあります。ですので、読みやすいです。冒頭に登場人物関係表がついていて、これもわかりやすいので、はじめて読むならこれがいいかもしれません。
ただ、冗長で無駄の多い描写こそが『金瓶梅』の本質的な価値、といえなくもありませんので、そこを削ってわかりやすくしてしまうのはどうだろう、と意見が別れるところではあります。
金瓶梅〈上〉 (徳間文庫)
全二巻。訳者は土屋 英明。
自分が読んだのはこれです。文庫2冊なので手軽だと思って選びました。
この本のウリはなんといっても性描写も含めて完訳というところでしょう。
ただ、『金瓶梅』は、原作の正式名称が『金瓶梅詞話』というだけあって作中に頻繁に戯曲などの歌詞が挿入されているのですが、この人の訳では、この歌の部分を文章になおして訳しているのが少し気になりました。
完訳ということもあってか、少し読みにくいのですが、『金瓶梅』を読もうという人はたいてい性描写についてもきちんと読みたいと思うでしょうから、これがいいのではないでしょうか。
以上、『金瓶梅』関連本についての簡単な紹介でした。
自分が『金瓶梅』に興味を持ったのは、これを読んだおかげです。
中国文学者の井波律子が、上巻で「三国志演義」「西遊記」、下巻で「水滸伝」「金瓶梅」と、これらの四大奇書に加えて、清代の小説「紅楼夢」の紹介をしています。
これを読めば、どれもとても長い作品である五大小説について、文学史的意義、あらすじ、その魅力などがわかります。特に「金瓶梅」や「紅楼夢」についてこれだけわかりやすく解説してくれる本というのは他になかなかないので、上巻ともども非常にオススメです。
巻末に各作品の章回回目(各話の題名)もついていて、資料としても役に立ちます。
そして、もっと『金瓶梅』に特化した解説本がこちら。
金瓶梅の解説本です。著者の日下翠は冒頭の「はじめに」で
「実を言うと、平凡社から出た『金瓶梅』(小野忍・千田九一訳)をはじめて読んだ時、なんと面白くない小説だろうかと感じた記憶がある。波乱万丈のストーリー展開はなく、時には退屈を覚えるほどであって、何故この小説が四大奇書の一つに挙げられるのか、不思議に思えたものであった。四大奇書の他の三作品がどれも抜群に面白いのとは対照的であった。(後略)」
と『金瓶梅』が予備知識無しに読むと、なかなか面白いとは感じにくい小説であることを正直に告白しています。
「その後、改めて真剣に読みなおす機会があった。その時評価が一変した。これは実にすぐれた文学作品だと、目をみはる思いがした。中国社会を理解するのに最適の書物であることはもちろんであるが、そのような実用の書としてなどより、はるかに価値のある、文学作品として極めて質の高い作品だと感じたのである。(後略)」
本書は、評価が180度変わったその理由を解き明かしていくというスタンスで書かれています。
そして、読んでいるだけではなかなか気づきにくい小説内の登場人物たちのささいなやり取りや、会話の裏にある深い意味を読み解いているので、事前にこれを読んでいると、本編がよりいっそう楽しめることうけあいです。
井波律子は『金瓶梅』の世界を物語の時系列にそって紹介するいわば編年体的な記述で紹介しているのに対して、日下翠は、各登場人物ごとに紹介する紀伝体のスタイルをとっているという違いも、おもしろかったです。
そして、いよいよ「本編を読もう!」という段になったら、翻訳書を手に取ることになると思うのですが、『金瓶梅』には現在数種類の翻訳書が出ています。
比較的簡単に手に入って一般的なものをご紹介。
金瓶梅 全10冊セット (岩波文庫)
全十巻。訳者は小野 忍と千田 九一。
平凡社の「中国古典文学大系」の『金瓶梅』も同じ訳者です。
岩波文庫と中国古典文学体系に入っているということで、おそらく一番メジャーな訳本がこれではないかと思います。
訳された年代が古いこともあって、完訳ではなくて、一部きわどい描写は、原文のまま残してあったり、削除されたりしているそうです。
金瓶梅〈1〉奸婦潘金蓮 (ちくま文庫)
全四巻。訳者は村上 知行。
第三書館から出ている「ザ・金瓶梅」という分厚い一冊本も、同じ訳者です。
この人の訳の特徴は、抄訳だということです。
原作のくどい描写や、ストーリー上あまり重要でない部分などをカットして短くしてあります。ですので、読みやすいです。冒頭に登場人物関係表がついていて、これもわかりやすいので、はじめて読むならこれがいいかもしれません。
ただ、冗長で無駄の多い描写こそが『金瓶梅』の本質的な価値、といえなくもありませんので、そこを削ってわかりやすくしてしまうのはどうだろう、と意見が別れるところではあります。
金瓶梅〈上〉 (徳間文庫)
全二巻。訳者は土屋 英明。
自分が読んだのはこれです。文庫2冊なので手軽だと思って選びました。
この本のウリはなんといっても性描写も含めて完訳というところでしょう。
ただ、『金瓶梅』は、原作の正式名称が『金瓶梅詞話』というだけあって作中に頻繁に戯曲などの歌詞が挿入されているのですが、この人の訳では、この歌の部分を文章になおして訳しているのが少し気になりました。
完訳ということもあってか、少し読みにくいのですが、『金瓶梅』を読もうという人はたいてい性描写についてもきちんと読みたいと思うでしょうから、これがいいのではないでしょうか。
以上、『金瓶梅』関連本についての簡単な紹介でした。
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