感想を一言で述べると
「21世紀の今もソビエト連邦は、そしてレーニンは生きていたんだ!」
という感じでしょうか。
「中国共産党 支配者たちの秘密の世界」
リチャード・マクレガー (著), 小谷まさ代 (翻訳) 草思社
♦(引用)2008年、バチカンとの非公式な交渉に当たっていた中国人がバチカンを訪れたさい、中国共産党とカトリック教会の不気味とも思える類似点について、こんな冗談を言った。
「中国共産党に宣伝部があるように、あなた方の教会には布教活動に熱心な人々がいます。われわれに中央組織部があるように、あなた方には枢機卿会があります」
バチカンの役人が「では、違いはどこだとお考えですか?」と尋ねると、その中国人はからからと笑いながらこう答えた。
「あなた方は神で、われわれは悪魔ですよ!」
(第一章 赤い機械 党と国家)
♦英『エコノミスト』『フィナンシャル・タイムズ』両誌の“ブック・オブ・ザ・イヤー2010”に選ばれた、最新の「中国共産党研究」です。中国共産党を理解する上で重要な内容を網羅した力作でした。
中国共産党について知ることは本当に難しい。
その徹底的な閉鎖性のために、一般の日本人がたとえ長年中国に住んでいた(あるいは住んでいる)としても、あるいはどんなに親しい中国人の友人がいても、そして現地メディアや香港メディア、ネットなどを原文でチェックしたところで、その実態を知ることはほとんど不可能なのではないかと思います。
どういう組織で、どういう歴史があって、どういう人物がいてということは調べればわかるのですが、その中の人事や意思決定の仕組み、人民解放軍と政府、民間企業と国営企業の関係などがどうしてもよくわからない。
それが、この本のおかげでようやく少しだけわかったような気がしました。
♦この本によると、中国というのは世間で言われているような「政治は社会主義で経済は資本主義」のいいとこどり(?)などではなくて、その実態はレーニンの作った旧ソ連の組織形態を忠実に受け継ぎ、人事システムを究極まで推し進めた旧ソ連以上に官僚支配が行き届いたまぎれもない共産主義国家なのです。
そして同じ共産主義国家として、崩壊したソビエトの事例を教訓として、情報統制や経済政策などを徹底的に学んでいます。
中共が民間企業や銀行に対して、いまだにここまで強い影響力を行使していたとは思いませんでした。大企業(もちろん民間の)のトップの首が国の意向で簡単にすげ替えられるなんて、ちょっと他の国ではありえません。
そうはいっても、今のところ、それがどうにかこうにかうまく機能しているのは経済発展の面をみれば明らかで、金融面でも、リーマンショックで諸外国が痛手を受けているのを尻目に、銀行の融資を厳しくコントロールしてうまく金融危機を乗り切り、その後の国際社会における中国の相対的地位を高めてしまいました。
♦(引用)中国外交のトップ、戴秉国(たいへいこく)の言葉によれば、中国の「最大の関心事は、国家の基本システムと国家の安全保障を維持すること」である。
国家の主権、領土の保全、経済発展、これらはどの国にとっても重要な課題だが、中国ではそれらが全て、党の権力保持という課題より下位に置かれているのだ。
(プロローグ)
♦中国の政治体制をわかりづらくしている理由の一つが、一党独裁でありながら、党と政府は完全に同じではないというところです。
表向きは政治は政府(国務院)が行いますが(内閣のようなもの)、裏側で実権を握っているのは「中国共産党」。基本的に政府の役職より党の序列のほうが優先されるのですが、実際には兼任している場合も多いのでややこしいです。
そして党内では常に強烈な派閥抗争があるので、中国共産党も決して一枚岩ではなくて、その時々の人事の力関係で政府の決定が右へ左へ大きく揺れているので、単純に「中国は今こう考えている」といいにくいのです。
ここらへんは昔の日本の自民党単独政権のころと似ているといえば似ていますね。ただ、軍の力も強いという点が日本とは圧倒的に違います。
組織上、党の下に位置しているはずの軍隊(人民解放軍)は、必ずしも党に絶対忠誠というわけではないために、党は常に軍の掌握にも四苦八苦しており、それがために政府も外国(含む台湾)に対して弱腰と取られるような対応がとれません。それが時として、外国から見て中国が理解しがたい行動をとることにつながっているのです。
♦もちろん中国の最大の問題点で政権のアキレス腱になりかねない官僚の腐敗についても紹介されています。
なにしろ腐敗を監視する機関の代表が党の幹部よりも役職が下なのですから、汚職の摘発なんてできるはずもありません。
我々から見たら、単純に「腐敗監視は独立した機関を設けたらいいのではないのか」と思ってしまうのですが、それでは「中国共産党が退廃的なブルジョア思想としてこれまで否定し続けてきた、モンテスキューの「三権分立」を行うことになってしまう」からできないのだそうです。これは完全に構造的な問題ですね。
♦そんなこんなで、分厚くて翻訳書なので文章も読みにくいのですが、あまりにも「共産党のそこが知りたい」というツボが次々に解説されるので、一気に(といっても一週間ぐらいかかって)読めました。
この手の中国共産党本は、反中イデオロギーに凝り固まって、なんでもかんでも悪意をもってとりあげて脅威を煽ったり、むやみに侮ってその実力を過小評価していることが多いので、これまでなかなかいい本が見つけられなかったのですが、本書は客観的な事実に基づいて公平にとりあげているので、その点でもとてもよかったです。
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