わかりたいかどうかはともかく。
宮崎市定「科挙 中国の試験地獄」
科挙と言えばご存知のとおり中国の国家公務員試験なわけですが、なにがすごいって、この制度、始まったのが587年の隋の時代なのです。
はじまった当初こそ、なんだかんだいっても九品官人法のなごりで貴族の子弟がコネやズルをして合格したりもしていたみたいですが、宋代以降は試験の公正さが徹底され、完全実力主義の世界になりました(もちろん現代同様、勉強に専念する環境が必要なためある程度裕福な層に限られはするのでしょうが)。
同年代の他の国を見回してみれば、これがいかに先進的な制度だったかわかるというものです。
一部の例外をのぞけば身分によって差別されずに誰でも挑戦できるうえ、合格して晴れて役人になったあかつきには、出世すれば宰相にだってなれてしまうのです。
科挙の歴史的な意義は他にもあって、科挙で最終的に合格者を選ぶのは皇帝です。これによってそれまで家柄によって官職を得て、官吏任用権などの特権を行使していた貴族の力が弱まり、結果として皇帝の独裁権力が確立されました。
受験者にとっては人生をかけた試験ですので、試験をする方も大変です。
受験者の中にはカンニングのために本屋ができるほどの大量の本を持ち込んだり(どうやったんだ?)、下着にびっしり書き込みをするようなふとどき者もいたようですし、採点する側も、不正を防ぐために答案用紙の名前は上に紙を貼って見えないようにした上で、筆跡が採点者にわからないように別の人間に書き写させた答案を採点させるなど、徹底しています。
本書では科挙の歴史や制度、受験する人達の悲喜こもごもなどが書いてあって、これ一冊でひと通り科挙のことはわかります。
この科挙という制度によって中国に士大夫という階層があらわれて、それが今の中国の官僚支配に連なっているともいえるので、現代中国を知る上でも価値ある一冊だと思います。
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