2012/08/17

阿佐ヶ谷ロフトA「三国志ナイト」より武将ランキングベスト15 その3




前回のつづき、これで最後です。

「歴史人」編集部主催の「三国志ナイト」より、三国志人気武将ランキングベスト15、いよいよベスト5です。

前回同様、順位と渡邉先生のコメントの一部抜粋(赤文字)の下に、私の個人的なコメントもつけておきます。


5位 夏侯惇

渡邉「あんまり強くないんですよね、この人。

いっぱい捕虜とか捕まっていますし、前線に出ないで兵糧を守ることばっかりですから、基本的にあんまり戦う人ではないですから。

演技の猛将のイメージからは大分遠いんですけれど、曹操が最も信頼したのは間違いない。この人だけが曹操の寝室に入ることが許された唯一の人、そういう人ですね。

後ろで頑張る人が一番重要な人なので、この人がいないと戦えなくなっちゃうっていうことですね。金庫番です。「盲夏侯(もうかこう)」って言われて嫌がるんですよ。で、鏡をみて鏡を投げ捨てるっていう。

5位に夏侯惇っていうのは個人的に理解に苦しむところではあります。全然重要な戦いで活躍したイメージがないのですが、そういう漫画や小説があるのでしょうか。

この人を選ぶぐらいなら、他に曹操配下なら、許褚なり典韋なり、張郃なりいくらでももっといいのがいるのに、と思ってしまいました。

4位 曹操

渡邉「やっていることが先進的すぎるので、周りの人はわからないと思いますよ。
男としてそばにいたら、たぶんついていけないというか、なにを考えているのか全然わからないっていうそういう怖さのある人だと思いますね。

文学的な才能もすごくありますし、兵家として孫子の注釈をつけてこの人の注で結局今も読んでいるわけだし、なんでもできるんですよ。僕すごい嫌いなんですけれど(笑)、許せないよね。これがいるから諸葛亮がかわいそうな目にあってるわけで。

この人がいないと中国史が変わっちゃうんですよね。それぐらい先進的で。諸葛亮がいなくても中国史は変わらないんですけど、曹操がいないと下手すると中国の形が変わってしまう、そういう歴史的重みのある人で、すごい嫌いなんですね。

歴代の君主がこの曹操の才能をみんな誉めるんですけれど、曹操に敵う人って少ないですよね」

最近の流行りでいうと、この人が一位じゃないかと思っていましたので、この順位は少し意外。

この人がこの時代トップクラスの英雄、才人なのに異論はないのですが、あんまりにも誉められすぎていたので、あえて悪口を言います(笑)。

結局、あれだけ圧倒的に有利な立場にありながら天下統一できなかった。それどころか、息子やその子孫の代ですらそれができなかった。あまつさえ、子孫は自分が登用した家臣にクーデターをおこされて国を乗っ取られてしまっている。

これ、ダメすぎるでしょう。

時代によって環境は違うにせよ、中国を統一した君主はいくらでもいるわけですから、それらと比べると、君主としてはしょせん地方政権のトップ程度ってことです。

結果的にクーデターを起こしたので司馬懿は野心家だったということになっていますが、劉備と諸葛亮の関係と比べると、司馬懿を自分の死後も裏切らないように心服させられなかった曹操にも責任がないとはいえないのではないでしょうか。

あと、曹操は詩人としてもすごい!というのもその当時はそうだったかもしれませんが、中国文学史の本を読んでもよほど詳しいものでない限り、曹操についての項目は、一言かせいぜい数行。それも作品そのものではなく、権力者として文学や文学者をどう扱ったか、という点で語られることが多くて、全くふれられていないことだってあるぐらいです。

同じ文学的才能で定評がある歴代皇帝でいうと、南唐の李煜(りいく)なんかが、文学者として文学史上欠かせない存在である(そのかわり、君主としてはまあ、あれですが)のと比べると、その方面でも中国史上そこまで圧倒的にすごいわけでもありません。

3位 諸葛亮

渡邉「撤退する時に兵を痛めていないんですよ。負け上手。普通はプロの戦いの人って前向いて戦っている時ってそんなに死なないんですよ。全滅しちゃうのって引いていて後ろから攻められちゃうんですよ」

渡邉先生のナンバーワンがこの人。イベント中、諸葛亮推しの名言が続出でした。

昔は日本での諸葛亮の人気は圧倒的だったのですが、今はそこまでではなくなってきているようです。

初めて三国志(演義)を読んだ時は、この人が関羽のピンチに助けにいかなかったり、夷陵の戦いについていかなかったりしたのが理解できませんでした。あの時、お前が行ってれば、その後の蜀ももうちょっと何とかなったかもしれないのに。

妖術を使うなら、ここだろ!と。

ともあれ、三国志がこんなにおもしろくなったのが、この人(と肝心なところで勝ちきれなかった曹操の間抜けさ)によるところ大なのは確かでしょう。

三顧の礼や出師の表など、キーワードを聞くだけでわくわくします。

2位 趙雲

渡邉「趙雲列伝っていう本があって、それが裴松之の注をひかれていて、趙雲すげーぜっていうのは全部趙雲列伝なんですよ。で、そのなんとか列伝っていうのは資料的にそんなに正しくなくて、東晋の時に著作郎っていう歴史家見習いみたいな人が夏休みの宿題で書くみたいなのが列伝なんですね。

書けと言われて、何も仕事していないと怒られるので一年に一個書かないといけないんですね。それでよく書くなんとか列伝というものなので、資料的には正しくないんですよ。だから正史には全然良く書かれていないし、よく書いているのは全部裴松之のなんとか列伝。

陳寿が(漢楚の戦いの)夏侯嬰と同じで、おそらく家督を守る親衛隊長みたいなの、それが実態だと思いますね」

自分が嫌いな武将ナンバーワンがこいつです。

漫画にしろドラマにしろ美形の若武者風に描かれることが多いこともあって(そんな歴史的事実はどこにもないはずなのですが)、昔から周りにもこいつを一番好きな人が多かったのですが、張遼の時に言ったことを繰り返しますが、確かに強くて賢くて、冷静沈着で信用もできて頼りになりますし、ゲームで使う時は重宝するキャラではありますが、そんな完璧でつまらない人、なにがいいんでしょうか?

それにさぞすごく強いように描かれることが多いですけれど、よくよく冷静に彼のしてきたことを見てみると、重要な場面で重要な戦果を上げた実績ってほとんどないんですよね。

ですので、渡邉先生のコメントを聞いてすごく納得しました。

1位 関羽

渡邉「知識人に対してコンプレックスがあるんですよね。
階層が一番下でしょ?張飛とか関羽とか。張飛はイメージを損なわないんですけれど、士大夫達、僕の言葉でいうと名士たちに媚びへつらうんですよね。

関羽は逆に春秋左氏伝なんかの勉強も一生懸命やって、対抗していくんだけれどやっぱり勉強ってそんなに簡単に身につかないんでどうしてもコンプレックスになって知識人との仲が悪いんですよね。

だから支配地域が安定しないんです。それをきれいに呂蒙に突かれた。陳寿なんかはそういう評をつけて関羽に対して冷淡ですね。

(関羽が神になったのは)ひとえに出身地なんですね。河東・解県(山西省)、そこに中国最大のソルトレイク(塩湖)があって、そこの神様になっていくのが、関羽がえらくなっていくお話とかかわっているんですね」

ものすごく意外な一位でした。関羽が一番好きっていう人、あまり聞かないんですけれどね。

自分は関羽はまあまあ好きな方なんですが、それでも悪口を言うと、この人とは友達付き合いするならともかく、同僚としていっしょに仕事したくないですね。

君主にはとても忠実かもしれないけれど、自分の能力が高いのを鼻にかけて傲慢で、部下や同僚にたいして偉そうで、小さなミスも許さず厳しく追求しそうなイメージ。まあ、職場で孤立するタイプですね(笑)。

諸葛亮登場以後はインテリ的役割を彼に奪われて、目に見えて不機嫌になっている様子が目に浮かぶようで、そりゃ孟達やら傅士仁やら麋芳やらの、いかにも普段軽く見られてそうな連中に、そろいもそろって裏切られるのも納得です。

まあ、そういう人間臭い欠点と強さや義理堅さとのギャップがあるから私は好きなんですが、それにしても一位はないよなあ。

というわけで、以上、三国志人気武将ランキングベスト15でした。

自分の好きな武将で言うと、龐統や陳宮なんかが入っていないのはしかたないかなと思うのですが、司馬懿がないのは残念でした。彼も賈詡同様、途中で殺されずに生を全うしたのが奇跡的なぐらい、ギリギリの危ういポジションを上手く乗り切ったすごい人物なんですけれどねえ。

今回書いていて思ったのですが、自分はどうもオールマイティな人間が嫌いみたいで、そういう人物には点が辛くなるみたいです。これはルサンチマンってやつですかね。逆に欠点があっても異能や特技を生かし、生き抜いていく人物が好きで、「水滸伝」に嫌いな人物がほとんどいないのは、このためなのかもしれません。


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