2014/01/11

横井 素子 「セレッソ・アイデンティティ 育成型クラブが歩んできた20年」

セレッソ・アイデンティティ 育成型クラブが歩んできた20年


セレッソ・アイデンティティ 育成型クラブが歩んできた20年 4344024818 | 横井 素子 | 幻冬舎 | ¥ 1,470 | 2013-12-12

第1章 香川真司との邂逅
第2章 大阪発欧州行き―乾貴士と清武弘嗣―
コラム ドイツの地で煌めく、セレッソ・ブランド
第3章 「ハナサカクラブ」はなぜ成功したのか
第4章 ジーニアス・柿谷曜一朗
第5章 レジェンド・森島寛晃
第6章 セレッソ・アイデンティティ 

見ての通り、一冊まるごとセレッソ大阪本です。


いかにも最近のセレッソブームに便乗した本のようにみえますが、さにあらず。

実は、セレッソは2013年でクラブ創設20年。

この節目のタイミングに、クラブ創設以来、広報として20年間以上セレッソに関わり続けた、セレッソをよく知る筆者による、かなり気合の入った一冊ですので、最近ファンになった人はもちろん、昔からのファンには特にたまりません。

完全にセレッソファン向けの本ではあるのですが、今をときめく香川や柿谷が、セレッソ大阪でどのように成長していったのか、あるいは、セレッソの育成組織がどのように生まれ、成功していったのかなど、Jリーグや日本代表に興味がある人であれば、誰が読んでも面白い内容になっています。



もちろん、セレッソファンであれば、もうどこを読んでもおもしろいところだらけなのですが、そうでない人も、3章の「「ハナサカクラブ」はなぜ成功したのか」などは、ここ数年、セレッソの若手が毎年のように海外へ移籍していることなどから注目されているセレッソの育成について、その成り立ちから紹介されているので、興味深いのではないでしょうか。


この2007年にスタートした「ハナサカクラブ」という組織は、育成選手のサポートを目的に協賛金を集めて運営しているのですが、この組織の特殊なところは、これがファンクラブとは完全に別の組織で、しかも、クラブ運営とも完全に分けられているというところです。

これによって、ハナサカクラブは、年ごとのクラブの成績や営業状況に左右されることなく、安定した運営が可能になっているのです。

このハナサカクラブ、今でこそセレッソの成功の象徴のようになっていますが、もともとセレッソには「育成」という思想があったわけではなかったので、設立当初は社内でも大反発があって、大変だったそうです。

なるほど、正直、昔からのファンとしては、いつのまにかセレッソは育成型のチームを目指していることになっているけれど、そんなの昔から言ってたっけ?っていう感じだったのですが、やはり、育成に力を入れだしたのはここ数年のことだったみたいですね。

そして昔からのファンにはたまらないのが、第5章「レジェンド・森島寛晃」。

「まず、セレッソのホームの長居で試合があることがすごいし、そこに自分が立たせてもらって、ゴールできた。奇跡だったと思います」

(第5章 レジェンド・森島寛晃 長居で決めたワールドカップでのゴール)

ここでは森島寛晃を中心に、西澤明訓、大久保嘉人ら、香川がエースになる以前の時代の歴代のセレッソの中心選手たちを振り返っています。

こうして見ると、セレッソ大阪というチームは、チーム誕生から森島引退までの時代と、森島引退後の香川から始まる若手台頭時代との、大きく2つに分けられることに気がつきます。

まさにレジェンドと呼ぶにふさわしい選手です。

そして、セレッソの新時代とも言える1章、2章、4章。どれもそれぞれに懐かしくて、印象深いのですが、やっぱり柿谷曜一朗の第4章がダントツでおもしろいです。

寮長の秀島弘は、よく柿谷と香川を「うさぎとかめ」の物語にたとえていた。


「柿谷は16歳のときに寮に入ってきたけど、朝は起きてこないしね。私が朝、市場へ仕入れに行って帰ってきたら、寝坊してまだ寮にいる。


(中略)


柿谷は頭がいいから、私がアドバイスしても、『寮長、こうしたほうがエエで。そのほうが早いと思う』と、言ってくる。



ちゃんと地道にやればいいものを、頭がいいから、ひとつ先を考えるんやね。


香川は違う。思い込んだら前しか見ない。よそ見はせん子やった。それだけに成功率が高い。柿谷はうさぎタイプ。香川はかめ。(後略)」

(第4章 ジーニアス・柿谷曜一朗 うさぎ柿谷と、かめ香川)

若い頃から天才の名をほしいままにし、素行不良だったユース時代、プロ入り後の挫折、徳島ヴォルティスへ放逐、徳島で地元のあたたかいサポートによって、復活、セレッソへ戻り、8番を受け継ぎ活躍、日本代表入りから、日本のエースストライカーへ。


なんてベタでわかりやすくて感動的なサクセスストーリーなんでしょう(笑)
しかも同世代に香川真司という好敵手までいるんですから、ドラマとしてできすぎもいいところです。

柿谷がユース時代からずっとあこがれていた森島が、引退時に背番号8の後継者として香川を指名した時の柿谷の心情は察するにあまりあります。


そして、その数年後、柿谷が森島の自宅に招かれ、森島から直接8番をつけて欲しいと頼まれた時・・・。

もうこの章だけを読むためにこの本を買っても良いレベル。

というわけで、クラブ創設20周年にふさわしい良い本ですし、しかも著者印税の一部がセレッソの育成組織の選手の活動をサポートする「ハナサカクラブ」の運営費になるそうですので、セレッソファンの人は、四の五の言わずに、新刊で買いましょう。

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