2014/05/05

ブルース・ブエノ・デ・メスキータ , アラスター・スミス「独裁者のためのハンドブック」 支配者が支配されるルール

最近読んだ面白かった本です。

独裁者のためのハンドブック
ブルース・ブエノ・デ・メスキータ , アラスター・スミス
独裁者のためのハンドブック

本の題名や表紙のポップなイラストから、軽めの「世界のオモシロ独裁者全集」みたいな本を想像しそうになりますが、著者はどちらも政治学者さんで、実はわりと硬派な政治学の本です。

ですので、翻訳本ということもあって、ちょっと読むのに骨は折れるのですが、読んでいて「へえー!」「ほー!」「なるほど!」と目から鱗が落ちまくりでした。

内容説明
独裁と民主主義に境界はない!カエサル、ルイ14世、ヒトラー、スターリン、毛沢東、カダフィ、金正日、プーチン、さらにはIOCやマフィア、実業家まで。古今東西の100を超える独裁者と組織をケーススタディとして取り上げ、カネとヒトを支配する権力構造を解き明かした、新視点の政治論。世界独裁者マップ付き!

ここで言う「カネとヒトを支配する権力構造」は、独裁者や独裁国家に限った話ではなく、民主国家であろうと大企業であろうと、あるいはごくごく小さなグループであろうと、集団が存在するところに必ず発生する普遍的な現象です。

そして、この本で提唱する単純な一つの原理を知れば、独裁国家と民主国家の二つの間に境界はないということがわかります。

結局、独裁国家と民主国家の違いというのは、単に意思決定に関わる構成要員の人数比の相対的な違いでしかなく、国家の理念やイデオロギー、文化などとは関係がないのです。

では目次を見てみましょう。
目次
序章 支配者を支配するルール
第1章 政治の原理—「金」と「仲間」をコントロールせよ
第2章 権力の掌握—破綻・死・混乱というチャンスを逃すな
第3章 権力の維持—味方も敵も利用せよ
第4章 財政—貧しき者から奪い、富める者に与えよ
第5章 公共事業—汚く集めて、きれいに使え
第6章 賄賂と腐敗—見返りをバラ撤いて立場を強化せよ
第7章 海外援助—自国に有利な政策を買い取れ
第8章 反乱抑止—民衆は生かさず殺さずにせよ
第9章 安全保障—軍隊で国内外の敵から身を守れ
第10章 民主化への決断—リーダーは何をなすべきか
このように、本書では国家の統治におけるさまざまなテーマについて考察されています。

しかし、これらのテーマを説明するのに使うツールは、たった一つのルールだけなのです。

そのルールとは、

『どんなリーダーも単体で存在するものではない。そしてリーダーの後ろ盾となる集団には

  1. 「名目的な有権者集団 -取り替えのきく者- (リーダーを選ぶための何らかの法的な立場を持つ)」
  2. 「実質的な有権者集団 -影響力のある者- (実際にリーダーを選ぶグループ)」
  3. 「盟友集団 -かけがえのないもの-(実質的な有権者の一部)」

の三種類があり、この3つのグループのサイズの違いによって、政治体制は変わるし、彼らの下で庶民がどの程度の生活を送ることができるかも決まる。』

これだけです。

この「実質的な有権者集団」と「盟友集団」の規模が相対的に大きければ大きいほど、リーダーは彼らを自由に操るための難易度が上がり、その国はより民主的だといえるし、逆に小さければ小さいほど、リーダーが金や特権で彼らを買収し、支配することが容易となるので、その国は独裁的になりやすいのです。

このルールの汎用性というのは驚くべきもので、このルールに従って考えることによって、「どうしてどこの国も程度の差こそあれ、政治家の汚職が絶えないのか」、「一般的に独裁国家よりも民主国家のほうが、国民が豊かになりやすいのはなぜなのか」、「どうして貧しい国へ援助しても無駄になることが多いのか」、「天然資源に恵まれた国に独裁国が多いのはなぜか」、あるいは「過去にイスラエルが自分たちより圧倒的に強大なエジプトを相手に中東戦争で勝利できたのはなぜか」、などなど様々な事象が、だいたい綺麗に説明できてしまいます。

本書を読んで、このルールを補助線にして国や集団を見ることによって、今までわかっているつもりでよくわかっていなかった「政治」という言葉まで、自分の中で再定義できました。

もちろん、古今東西の独裁者紹介もありますし、付録に「世界独裁者マップ」もついていますので、独裁者フリークのかたにも満足いただける一冊だと思います。

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